2025年9月、企業向けソフトウェア大手のAtlassianが、AIブラウザで注目を集めるThe Browser Companyを6億1000万ドル(約1000億円)で買収すると発表しました。この買収により、従来の汎用ブラウザとは一線を画す、企業業務に特化したAIブラウザ「Dia」の開発が加速することになります。
現在、様々な企業ワークフローのウェブブラウザ内で実行されているにも関わらず、セキュアブラウザを採用している企業は少ない現状があります。この状況を踏まえ、Atlassianは業務効率化と安全性の両立を目指した革新的なソリューションを提供しようとしています。
本記事では、この買収が企業のデジタルワークスペースにどのような変革をもたらすのか、そして私たちの働き方がどう変わっていくのかを詳しく解説します。
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Atlassianは、Jira、Confluence、Trello、Bitbucketなど、企業の開発・プロジェクト管理ツールで圧倒的なシェアを持つ時価総額約10兆円の巨大企業です。同社がThe Browser Companyを買収した背景には、明確な戦略的意図があります。
AtlassianのCEOマイク・キャノン・ブルックス氏は、「今日のブラウザは仕事のために作られていない。閲覧のために作られた」と述べ、この買収がAI時代の知識労働者向けブラウザの再構築に向けた大胆な一歩であることを強調しました。
買収金額の6億1000万ドルは全額現金で支払われ、2026会計年度第2四半期に完了予定です。この規模の投資は、Atlassianが企業向けAIブラウザ市場に本格参入する強い意志を示しています。

The Browser Companyは、従来のブラウザ体験を根本から見直すことを目指すスタートアップです。同社は最初に「Arc」というブラウザを開発し、その後、より企業向けに特化した「Dia」を発表しました。
Diaは単なるウェブブラウザではなく、知識労働者専用に設計された次世代の企業向けブラウザです。従来のブラウザタブが独立して機能していたのに対し、Diaは各アプリケーション間の関連性を理解し、作業の連続性を保持する革新的な機能を持っています。
特に注目すべきは、DiaがSaaSアプリケーションの最適化に特化していることです。メール、プロジェクト管理ツール、デザインアプリケーションなど、日常的に使用する業務アプリケーション間でのコンテキスト共有を実現し、これまでタブに散らばっていた作業を統合的に管理できるようになります。

現在の企業環境では、従業員が一日に数十のSaaSアプリケーションを切り替えながら作業することが当たり前になっています。しかし、これらのアプリケーション間での情報共有や作業の連続性は十分に確保されていません。
私は、この問題が企業の生産性向上における大きなボトルネックになっていると考えています。例えば、Slackでの議論をJiraのタスクに反映し、それをConfluenceのドキュメントに整理するという一連の作業は、現在では手動で行う必要があります。
企業特化のAIブラウザは、以下のような課題を解決できる可能性があります:

この買収の最大の魅力は、DiaがAtlassianの豊富な製品群と深く統合される可能性にあります。Jira、Confluence、Trello、Loom、Bitbucketといった企業の中核業務を支えるツールとの連携により、これまでにない業務効率化が実現できると考えられます。
具体的には、以下のような統合シナリオが想定されます:
| 統合機能 | 具体的な効果 | 従来との違い |
| Jiraタスクの自動生成 | ブラウザ上での議論や作業から自動的にタスクを作成 | 手動でのタスク作成が不要 |
| Confluenceとの連携 | 作業中の情報を自動的にドキュメント化 | 情報の散逸防止と知識の蓄積 |
| 権限管理の統合 | 企業のセキュリティポリシーに基づいたアクセス制御 | 個人ブラウザでは困難な企業レベルの管理 |
2025年7月には、Atlassian IntelligenceがConfluenceリンクからJiraの作業項目を自動生成する機能がベータ版として展開されました。この機能では、JiraのタスクにConfluenceページのリンクを貼り付けるだけで、AIが自動的に構造化された説明文を生成します。このような機能がブラウザレベルで統合されることで、さらに seamless な作業体験が実現されるでしょう。

一般ユーザー向けのブラウザと企業特化ブラウザの最大の違いは、管理機能とセキュリティ機能になるでしょう。企業管理前提のブラウザでは、以下のような機能が実現されると思います。
管理者がログを確認できたり、権限設定を細かく制御できたりすることで、企業のコンプライアンス要件を満たしながらAI機能を活用できます。これは、個人向けブラウザでは実現が困難な機能です。
企業環境では、情報漏洩や不適切なアクセスを防ぐことが重要です。企業特化ブラウザでは、AIによる異常検知機能やアクセス制御機能により、これらのリスクを大幅に軽減できます。
ブラウザがAtlassianの提供する各種ツールの操作を自動化し、最適化することで、従業員の作業効率を大幅に向上させることができます。AIに自動操作をしてもらったり、相談しながら作業を進めたりすることが、より安全で効率的に実現されます。

買収により、The Browser CompanyはDiaブラウザをすべてのプラットフォーム(Mac、Windows、iOS、Android、企業向け)により迅速に展開できるようになります。これまで以上に幅広い企業環境での利用が可能になるでしょう。
一方で、企業向けAIブラウザには新たなセキュリティ課題も存在します。2025年5月の研究により、自律型AIブラウザエージェントは人間ユーザーよりも本質的にセキュリティが脆弱であることが明らかになりました。特にプロンプトインジェクション攻撃に対する脆弱性は、企業利用において重要な検討事項となります。
しかし、Atlassianの企業向けソフトウェアでの豊富な経験と、企業管理前提の設計により、これらの課題を適切に解決できる可能性が高いと私は考えています。

AtlassianによるThe Browser Company買収は、企業向けAIブラウザ市場における重要な転換点となるでしょう。この買収により実現される企業特化のAIブラウザ「Dia」は、以下の点で企業の働き方を大きく変える可能性があります:
この買収は、単なる技術的な統合を超えて、企業の知識労働のあり方そのものを変革する可能性を秘めています。今後の展開に注目していきたいと思います。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
Atlassianは、企業向けAIブラウザ市場への本格参入を目指し、The Browser Companyを買収しました。従来の汎用ブラウザではなく、企業業務に特化したAIブラウザ「Dia」の開発を加速させ、業務効率化と安全性の両立を目指しています。
Diaは、知識労働者専用に設計された次世代の企業向けブラウザです。SaaSアプリケーションの最適化に特化しており、メール、プロジェクト管理ツール、デザインアプリケーションなど、日常的に使用する業務アプリケーション間でのコンテキスト共有を実現し、作業を統合的に管理できます。
Diaは、従来のブラウザが独立して機能していたのに対し、各アプリケーション間の関連性を理解し、作業の連続性を保持する機能を持っています。また、企業管理を前提としたセキュリティ機能や、Atlassian製品群との連携による業務効率化機能も特徴です。
DiaとAtlassian製品群との連携により、例えば、ブラウザ上での議論や作業から自動的にJiraタスクを作成したり、作業中の情報をConfluenceに自動的にドキュメント化したりできます。これにより、手動でのタスク作成や情報整理が不要になり、業務効率が向上します。
企業向けブラウザを導入することで、情報の分散化の解消、アプリケーション間での作業文脈の継続性確保、セキュリティリスクの軽減、AIによる自動化と最適化による生産性向上などのメリットが期待できます。また、企業レベルでの管理機能により、コンプライアンス要件を満たしながらAI機能を活用できます。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。