
2025/07/21(月)
コールセンターや営業の現場で、こんな課題を感じたことはありませんか?「ベテランのオペレーターは素晴らしい対応をするのに、新人はなかなか同じレベルに達しない」「熟練者の判断プロセスが暗黙知になっていて、教育に時間がかかる」。
NTTが2025年8月に発表した世界初のAI技術は、まさにこの課題を解決する革新的なソリューションです。この技術は、熟練者の判断プロセスを約9割の高精度でフローチャート化し、新人でも熟練者レベルの対応を再現可能にします。
本記事では、この画期的な技術の仕組みと、あなたの業務にも応用できる実践的なアプローチについて詳しく解説します。読み終える頃には、過去のデータを活用して業務プロセスを可視化する具体的な方法が理解でき、明日からでも実践できるヒントを得られるでしょう。
目次
NTTが開発したこの技術は、大規模言語モデル(LLM)を用いて問い合わせ履歴を分析し、熟練者の判断プロセスをフローチャート形式で可視化する仕組みです。特にコールセンター業務やセキュリティ事故対応など、暗黙的なノウハウが重要な業務において威力を発揮します。
具体的な例を見てみましょう。「子供と旅行に行きたい」という問い合わせに対して、熟練オペレーターは以下のような思考プロセスを持っています:
このような暗黙的な判断プロセスを、AIが自動的に抽出し、「お子様用のベッドは必要ですか?」といった具体的な提案として可視化するのです。
この技術の最大の特徴は、ファインチューンやRAG(Retrieval-Augmented Generation)と比べて応答根拠がフローチャートで明確なため、自動応答システムの信頼性が高いことです。なぜなら、AIの判断過程が透明で、人間が理解しやすい形で表現されているからです。
この技術の核心は、熟練者の判断プロセスを3つの段階に分けて抽出することです。各段階を詳しく見ていきましょう。
まず、問い合わせ履歴から熟練者が行った質問と提案を抽出し、それぞれにIDを付与します。この段階では、様々な問い合わせ方法で行われた質問を統一的な観点で統合していきます。
例えば、以下のような質問が異なる表現で記録されていたとします:
これらは本質的に同じ質問なので、一つの質問として統合し、統一的なIDを付与します。この統合プロセスにより、データの整合性が保たれ、後の分析精度が向上するのです。
次に、抽出した質問・提案に基づいて問い合わせ履歴をフローに構造化します。一つの履歴に対して生成した質問・提案リストを参照しながら、問い合わせの流れがどのような構造になっていたかを分析します。
具体的には、以下のような構造化が行われます:
ステップ | 内容 | 次のアクション |
1 | 旅行の問い合わせ受付 | 詳細確認へ |
2 | 同行者の確認(子供の有無) | 年齢確認へ |
3 | 子供の年齢確認 | 適切なサービス提案へ |
4 | 子供用ベッドの提案 | 予約確定へ |
この構造化により、熟練者がどのような順序で情報を収集し、どのタイミングで提案を行っているかが明確になります。
最後に、構造化した問い合わせフローをフローチャートに集約します。構造化フローで質問・提案から次の質問・提案への遷移を1ステップとして出現回数をカウントし、閾値を設けて絞り込みを行います。
出現回数が多いものが上位になるようなツリー構造に変換することで、最終的なフローチャートが完成します。この手法により、最も効果的で頻繁に使用される判断パターンが自動的に抽出されるのです。
実際の実験では、FlowDialという公開データセットを使用して、約9割の確率で正しいフローチャートが生成されることが確認されています。この高い精度により、実用的なレベルでの業務活用が可能になっています。
この技術が画期的な理由は、従来のAIアプローチとは根本的に異なるアプローチを取っていることです。その違いを詳しく見てみましょう。
過去のデータを活用してAIで何かを実現しようと思うと、どうしてもRAG(Retrieval-Augmented Generation)のようなデータベースから参考にするような発想を持ちがちです。しかし、このアプローチは全くRAGとは異なります。
最も重要な違いは、最終アウトプットがフローチャートであることです。つまり、AIを使ってフローチャートを作成した後は、そのフローチャートを使うときに必ずしもAIは必要ありません。
具体的なメリットは以下の通りです:
この技術のもう一つの大きな利点は、AIに詳しい人がローカルデータを持っておいて、自分の環境で処理してアウトプットを作ってしまえば実現できることです。
これにより、難しいデータベースを構築しなくても、過去のデータを効果的に活用できるのです。
この技術の素晴らしい点は、コールセンター業務だけでなく、営業や他の業務にも応用できることです。同じような考え方で、様々な業務プロセスを可視化できそうです。
業務分野 | 対象データ | 期待される効果 |
営業 | 商談記録、提案プロセス | 成功パターンの可視化、新人教育の効率化 |
カスタマーサポート | 問い合わせ対応履歴 | 対応品質の標準化、解決時間の短縮 |
技術サポート | トラブルシューティング記録 | 診断プロセスの標準化、専門知識の継承 |
医療診断 | 診断プロセス記録 | 診断精度の向上、経験の浅い医師への支援 |
この技術を実際に導入する際には、いくつかの重要なポイントがあります。成功確率を高めるために、以下の点に注意してください。
フローチャート化の精度は、元データの品質に大きく依存します。以下の点を確保することが重要です:
生成されるフローチャートのデータ形式も重要な検討事項です。一般的には以下のような形式が考えられます:
フローチャートは一度作成して終わりではありません。以下のような継続的な改善が重要です:
この技術は、単なるコールセンター業務の効率化を超えて、様々な分野での知識継承や業務標準化に革命をもたらす可能性があります。
多くの企業が直面している熟練者の技術継承問題に対して、この技術は有効な解決策を提供します。暗黙知として蓄積されていた専門知識を、明示的なフローチャートとして可視化することで、効率的な知識継承が可能になります。
作成されたフローチャートは、さらにAIに応用することも可能です。例えば:
この概念とやり方は、過去データを精度の低いRAGにするのではなく、フローチャートに落としていくという発想が非常に優れています。
この発想は、データ活用の新しいパラダイムを示しており、様々な業界での応用が期待されます。重要なのは、複雑なAI技術に頼るのではなく、人間が理解しやすい形でデータを活用することです。
NTTが開発した熟練者判断プロセス可視化技術は、以下の点で画期的な技術です:
この技術の本質は、過去のデータを単純にデータベース化するのではなく、人間が理解しやすいフローチャート形式で可視化することにあります。これにより、AIの恩恵を受けながらも、人間が主体的に関与できる実用的なソリューションが実現されています。
あなたの組織でも、過去の業務データを活用してこのようなアプローチを試してみることで、熟練者のノウハウを効果的に可視化し、業務効率化と知識継承を同時に実現できるかもしれません。まずは小規模なデータセットから始めて、この革新的な手法の効果を体験してみてください。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
NTTが開発したAI技術は、熟練者が業務で行う判断プロセスを大規模言語モデル(LLM)を用いて分析し、フローチャートとして可視化するものです。これにより、暗黙知となっている熟練者のノウハウを形式知に変え、誰もが理解しやすい形で共有できます。
判断プロセスが明確になるため、透明性が向上します。また、フローチャートは人間が理解しやすい形式なので、必要に応じて手動で修正や改善が可能です。さらに、複雑なクラウドの仕組みやサービスがなくても実現できるため、システム依存度が低いというメリットもあります。
コールセンター業務における顧客対応の標準化だけでなく、営業の成功パターンの分析、カスタマーサポートの対応品質向上、技術サポートのトラブルシューティング効率化、医療診断の精度向上など、幅広い業務に応用できます。
元となるデータの品質が重要です。十分なデータ量(数百件以上)、データの一貫性、可視化したい判断プロセスを持つ熟練者のデータが必要です。また、生成されるフローチャート形式の選択や、業務プロセスの変化に応じた定期的な見直しも重要です。
従来のRAGやファインチューンとは異なり、最終アウトプットがフローチャートである点が最大の違いです。AIを使ってフローチャートを作成した後は、そのフローチャートを使うときに必ずしもAIは必要ありません。これにより、透明性が高く、修正が容易で、システム依存度が低いというメリットが生まれます。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。