
2025/09/27(土)
企業にとって新たな脅威が登場しています。イスラエル発のスタートアップ「Darrow」が展開する、AIを活用して企業の法的リスクを自動検知し、弁護士に集団訴訟の種を売るビジネスモデルです。このサービスは「摩擦のない正義の世界をつくりたい」という理念を掲げていますが、企業側から見ると極めて脅威的な存在となっています。
実際に、Darrowが発見した出会い系アプリBumbleを相手取る訴訟では、米国人のカオスキャンを同意なしに収集・保存したとして訴訟が起こされ、最終的に4000万ドルの和解金支払いに合意しました。弁護士は1400万ドルという大きな利益を手にしたのです。
目次
Darrowは2020年に設立されたLegalTech企業で、AI駆動型のプラットフォームを通じて革新的な訴訟ビジネスモデルを展開しています。同社の核心的なアプローチは、消費者の苦情や企業のプライバシーポリシーなどをAIで分析し、集団訴訟につながる可能性のある企業の不正や法的リスクを探し出すことです。
具体的なサービス内容は以下の通りです:
このプロセスはScan(スキャン)、Detect(検出)、Deliver(届ける)の3ステップで構成されており、従来ジュニアスタッフが担当していた訴訟案件の発掘作業をAI技術で効率化・自動化しています。
Darrowの収益モデルは二重構造になっています。まず、サブスクリプションと従量課金の両方で収益を上げています。さらに物議を醸している点として、弁護士が勝訴した場合、スタートアップは弁護士の報酬の一部を密かに受け取るという仕組みがあります。
この報酬分配について、Darrowの最高収益責任者は語るのを好まず、はぐらかしているとされています。アメリカのアリゾナ州の弁護士ドン・ヴィベンツ氏は、「競合他者の模倣と非弁護士との弁護士報酬の分配に関する倫理規則の配慮である」と指摘しています。
現在、Darrowは社員数156人を抱え、80の法律事務所を顧客に変え、年間数万ドルから数百万ドルの範囲で料金を課しています。2024年の売上は2600万ドルに達し、今年は5000万ドルを見込んでいます。
このようなビジネスモデルが日本で展開される可能性について考える際、重要な法的制約があります。日本では非弁護士と弁護士が訴訟において得た収益を分配することは原則違法とされています。
具体的には、以下の法的根拠により厳格に規制されています:
法的根拠 | 内容 |
弁護士法第72条 | 弁護士または弁護士法人でない者が業として報酬目的で法律事務を取り扱うことを禁止 |
弁護士職務基本規程第12条 | 弁護士が弁護士等以外の者との間で「その職務に関する報酬」を分配することを原則禁止 |
弁護士法第27条 | 非弁提携の禁止(弁護士法72条から74条の規定に違反する者からの事件周旋受領禁止) |
紹介を受けて分配すること、一部利益を非弁護士に与えることは違法と判断される可能性が非常に高く、違反した弁護士は弁護士会による懲戒の対象となります。一方、英国やオーストラリアでは非弁護士との報酬分配は合法とされており、国によって大きく異なる状況です。
このようなAI駆動型の法的リスク検知サービスは、企業にとって極めて脅威的な存在です。従来は人的リソースの制約により見過ごされていた小さな法的リスクも、AIの力によってすべて調べられ、訴訟の種として活用される可能性があります。
特に懸念される点は以下の通りです:
Darrowだけでなく、コロラド州ボルダーに拠点を置くスタートアップ「JustPoint」も同様に訴訟アイデアを探しています。医薬品関連の集団訴訟は個別訴訟よりも大きくなることが多く、アスベスト被害者をめぐる数十年にわたる訴訟では、総額数兆円規模の賠償金が積み上がることもあります。
この企業は弁護士を4人程度抱え、そこに対して案件を紹介し、自社の中で弁護士事務所を持って利益を得ていくというビジネスモデルを展開しています。
Darrowのようなサービスは、表面的には「権利を侵されている人を救いたい」という理念を掲げていますが、企業側から見ると極めて脅威的な存在です。AIの力により、従来は見過ごされていた小さな法的リスクまでもが訴訟の種として活用される時代が到来しています。
主要なポイントをまとめると以下の通りです:
企業は、このような新たな脅威に対して、従来以上に厳格なコンプライアンス体制を構築し、継続的にリスクを監視・対応していく必要があります。AIが法務分野に与える影響は今後さらに拡大していくと考えられ、企業の法的リスク管理は新たな段階に入ったと言えるでしょう。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
Darrowは、AIを活用して企業の法的リスクを自動で検知し、弁護士に集団訴訟の種を売るイスラエル発のLegalTech企業です。消費者の苦情や企業のプライバシーポリシーなどをAIで分析し、集団訴訟につながる可能性のある企業の不正や法的リスクを探し出すサービスを提供しています。
Darrowの収益モデルは、サブスクリプションと従量課金による収入に加えて、弁護士が集団訴訟で勝訴した場合に、弁護士の報酬の一部を受け取るという仕組みがあります。ただし、この報酬分配については倫理的な議論も存在します。
日本では、弁護士法により非弁護士が報酬目的で法律事務を取り扱うことや、弁護士が非弁護士と報酬を分配することが原則として禁止されています。そのため、Darrowのビジネスモデルをそのまま日本で展開することは難しいと考えられます。
企業は、包括的なコンプライアンス体制の構築、定期的なリスクアセスメントの実施、プライバシーポリシーの厳格化、法務部門の強化、継続的な監視体制の構築といった対策を検討する必要があります。AIが法的リスクを検知する前に、自社でリスクを特定し、対応できる体制を整備することが重要です。
リーガルAI市場は急速な成長を遂げており、2024年には1.72億ドルの規模に達し、2035年までに年平均成長率(CAGR)17.80%で成長し、10.43億ドルまで拡大すると予測されています。機械学習、自然言語処理(NLP)、法的文脈での自動化技術の応用が成長を牽引しています。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。