
2025/08/28(木)
コールセンター運営において、通話終了後の要約作成は重要な業務の一つですが、従来は手作業で時間がかかり、オペレーターの負担となっていました。しかし、月極駐車場のDXを推進する株式会社ニーリーでは、AIを活用することで通話終了後10秒以内に高精度な要約を自動生成するシステムを構築し、コールセンター運営の大幅な効率化を実現しています。
この記事では、ニーリー社が実際に導入したAI要約システムの詳細な構成と、なぜこのアーキテクチャが効果的なのかを、技術的な背景も含めて詳しく解説します。月間数万件の通話を処理する実際の運用事例から、あなたの組織でも応用できる具体的なヒントを見つけていただけるでしょう。
目次
株式会社ニーリーは、月極駐車場のDXを推進するモビリティSaaS企業として急成長を続けており、累計100億円の資金調達を実現したスタートアップです。同社では月間数万件の通話が発生する社内コールセンターを運営しており、駐車場の借り主とクライアントからの問い合わせ対応を260名の規模で行っています。
コールセンターでは、通話を終えるたびにオペレーターがテキストをチケット管理システムに記録する必要があります。どのような内容の問い合わせだったのか、どう対応したのかといった詳細な履歴を残すことは、顧客サービスの品質向上と業務の継続性確保において極めて重要です。
特に重要なのは、通話終了後にオペレーターが履歴を確認するケースもあるため、10秒以内には要約チケットが必要という厳しい要件です。月数万件という大量の通話を処理する中で、この速度要件を満たすことは技術的に大きな挑戦でした。
ニーリー社では、Amazon Connectをコールセンターの基盤として採用し、AWSの各種サービスを組み合わせた包括的なアーキテクチャを構築しています。
システムの基本的な流れは以下のようになっています:
このアーキテクチャの最大の特徴は、ストリーミング処理によってほぼリアルタイムに文字起こしができる点です。通話が進行中から文字起こしが開始されるため、通話終了と同時に要約処理に移行できる効率的な設計となっています。
通話終了後に要約を生成するためには、スタートからセグメントの間で受信したデータを適切に保存する必要があります。ニーリー社ではDynamoDBを使用してこの課題を解決しています。
受け取ったタイミングで一連の文字起こしを取得して要約を生成する処理には、通常3から5秒程度の時間がかかります。しかし、この処理時間がボトルネックとなってシステム全体がスタックしてしまう可能性がありました。
この問題を解決するため、ニーリー社では以下の革新的なアプローチを採用しています:
この構成により、月間数万回の通話処理において、5から7秒程度で要約が完成し、10秒以内という厳しい要件を安定して満たすことができています。
要約処理にはClaude 3.5 Haikuを採用しています。このモデルを選択した理由は、処理速度とバランスの良さにあります。
Claude 3.5 Haikuは、カスタマーサポートやリアルタイム性が求められる場面で特に優れた性能を発揮します。32Kトークン未満のプロンプトに対して毎秒21,000トークン(約30ページ分)を処理する能力を持ち、シンプルな問い合わせや繰り返しの多い業務に対して迅速な応答を提供できます。
コールセンターの要約業務においては、処理速度と精度のバランスが極めて重要です。より高精度なモデルも存在しますが、10秒以内という厳しい時間制約を考慮すると、Claude 3.5 Haikuの選択は非常に合理的だったと考えられます。
また現在の最新AIモデルであれば、さらに精度・速度を担保できる可能性が高いでしょう。
このようなシステムを実装する際の重要なポイントをまとめると、以下のような要件定義と技術選択が必要になります:
これらの要件は、現在ではAIに相談することで、そこそこ精度の高い提案を得ることも可能です。ただし、実際の運用においては、ニーリー社のような具体的な成功事例を参考にすることで、より確実な実装が可能になるでしょう。
ニーリー社の事例が示すのは、AIを活用することでこれまで不可能だった業務効率化が実現できるという点です。10秒以内での要約生成は、単なる時間短縮以上の意味を持ちます。
オペレーターは通話終了と同時に次の業務に移行でき、顧客への対応品質も向上します。また、正確な要約が即座に生成されることで、チーム内での情報共有や引き継ぎも格段にスムーズになります。
コールセンターへのAI導入は、投資収益率(ROI)7倍以上という驚異的な効果が実証されており、人手不足や運営コストの課題を根本的に解決する技術として、多くの組織で積極的に採用されています。
ニーリー社のような成功事例は、他の企業にとっても大きな参考となり、同様のシステム構成を採用することで、コールセンター運営の革新的な改善が期待できます。
ニーリー社の事例から学べる重要なポイントをまとめます:
このような革新的なシステムが実現できることは、コールセンター運営において大きな可能性を示しています。適切な技術選択と設計により、従来は困難だった高速・高精度な要約生成が現実のものとなり、業務効率化と顧客満足度の向上を同時に実現できるのです。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
コールセンターにおける通話内容をAIが自動で要約するシステムです。これにより、オペレーターの業務効率化、顧客対応の品質向上、情報共有の円滑化が期待できます。株式会社ニーリーでは、通話終了後10秒以内に要約を生成するシステムを構築しています。
Amazon Connectを基盤とし、Lambdaで文字起こしと要約処理を行います。DynamoDBで通話データを保存し、SQSとLambdaによる並行処理で高速化を実現しています。要約モデルにはClaude 3.5 Haikuを採用しています。
Amazon Connectは、AWS(Amazon Web Services)が提供するクラウド型のコンタクトセンターサービスです。通話、チャット、タスク管理などの機能を備えており、柔軟なカスタマイズが可能です。ニーリー社では、コールセンターシステムの基盤として採用しています。
Claude 3.5 Haikuは、Anthropic社が開発したAIモデルで、特に処理速度と精度のバランスに優れています。カスタマーサポートなどリアルタイム性が求められる場面で高い性能を発揮し、高速な応答が可能です。ニーリー社のシステムでは、10秒以内の要約生成に貢献しています。
オペレーターの業務効率が向上し、顧客対応の品質が向上します。また、正確な要約が迅速に生成されるため、チーム内での情報共有や引き継ぎがスムーズになります。人手不足や運営コストの課題解決にもつながり、投資収益率(ROI)の向上が期待できます。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。