
2025/08/24(日)
2025年9月、アルバニアが世界で初めてAI(人工知能)を閣僚として任命するという画期的な決定を行いました。「Diella(ディエラ)」と名付けられたこのAI閣僚は、公共入札における汚職を100%撲滅することを目標に掲げ、政府の調達業務を担当します。この革新的な取り組みは、デジタルガバナンスの新たな可能性を示すものとして、世界中から注目を集めています。
アルバニアのエディ・ラマ首相は「ディエラは物理的に存在せず、AIによって仮想的に生成された初の政府閣僚だ」と発表し、公共入札に関する全権を委ねました。この取り組みは、従来の政治システムにAI技術を直接組み込む前例のない試みとして、テクノロジー業界や政府関係者から強い関心を集めています。
目次
Diellaは、アルバニアのAKSHI(国家情報社会庁)の人工知能研究所によって開発されたAIシステムです。当初は2025年1月にeAlbaniaプラットフォーム上の仮想アシスタントとして導入され、政府サービスをオンラインでナビゲートするデジタルアシスタントとして機能していました。
システムはアルバニアの伝統衣装を着たアニメーションアバターとして表現され、アルバニア人女優アニラ・ビシャの容姿と声をベースにしています。2025年9月までに、Diellaは36,600件以上の文書処理と約1,000のサービスを支援した実績を持ち、デジタルスタンプ付き文書の発行も可能です。
特筆すべきは、このAI閣僚が給与を受け取らない点です。人間の政治家とは異なり、経済的な利害関係から完全に独立した立場で業務を遂行できるという利点があります。
Diellaの最も重要な役割は、公共入札における汚職の完全な撲滅です。エディ・ラマ首相は「100%腐敗のない入札を実現し、入札手続きに拠出されるすべての公的資金は完全に透明化される」と宣言しています。
具体的には、政府と民間企業が結ぶ契約のすべての入札プロセスを監視し、それぞれの提案のメリットを客観的に評価することが主な機能です。これまで各省庁が持っていた落札者を決定する権限は、段階的にDiellaに移管されていきます。
このシステムの革新性は、人的な腐敗要因を完全に排除できる点にあります。従来の公共入札では、担当者の主観的判断や利害関係が介入する余地がありましたが、AIによる客観的な評価により、そうしたリスクを根本的に解決できると期待されています。
アルバニアがこのような抜本的な改革に踏み切る背景には、同国が抱える汚職問題があります。2020年の汚職認識指数では、アルバニアは100点満点中42点を獲得し、180か国中80位という結果でした。これは決して最悪の水準ではありませんが、EU加盟を目指す同国にとって、汚職撲滅は重要な課題となっています。
参考として、日本は同指数で20位の71点を獲得しており、アルバニアとは約30ポイントの差があります。この数値からも、アルバニアが汚職対策に本格的に取り組む必要性が理解できます。
近年、アルバニアは改善傾向を示しており、特別検察庁(SPAK)と特別裁判所の設立により、高レベル汚職や組織犯罪との闘いが強化されています。しかし、政治勢力や犯罪組織からの激しい抵抗により、これらの機関の独立性と安全性が脅かされているのも現実です。
私は、小さい国ほど抜本的な取り組みができるという点で、この事例は非常に興味深いと考えています。大国では既存の制度や利害関係が複雑に絡み合い、このような大胆な改革を実行することは困難です。しかし、アルバニアのような中堅国であれば、ベンチャー企業のような機動力で革新的な取り組みを実現できるのです。
この取り組みがどのような結果をもたらすかは、まだ予測できません。めちゃくちゃ良い成果を上げるかもしれませんし、逆にものすごい問題になってしまう可能性もあります。
一方で、AI閣僚の導入には新たなリスクも存在します。特に懸念されるのは、AIハックやプロンプトインジェクションといった技術的な攻撃です。
例えば、悪意のある業者が書類の中にAIしか読めないようなプロンプトを埋め込み、システムを操作しようとする「プロンプトインジェクション」攻撃が考えられます。このような攻撃は、AIシステムが普及するにつれて現実的な脅威となっており、適切な対策が必要です。
また、AIシステムの判断基準やアルゴリズムの透明性も重要な課題です。どのような基準で入札を評価するのか、その過程が十分に透明化されていなければ、新たな形の不公正が生まれる可能性もあります。
アルバニアのAI閣僚任命は、国際的に大きな注目を集める画期的な出来事となりました。調達業務という、多くの国で汚職の温床となりやすい分野にAIを導入することで、透明性と効率性の向上を図る狙いは、他国にとっても参考になる取り組みです。
特に、人間の政治家ではなくAIシステムが実際の政府機能を担当するという前例のない試みは、デジタルガバナンスの新たな可能性を示すものとして評価されています。
ただし、アルバニアは現在EU加盟候補国であり、このAI閣僚の導入がEU加盟プロセスに与える影響は注目すべき点です。EUは近年、AI規制法(EU AI Act)を制定するなど、AI技術の規制と倫理的な使用に関して厳格な姿勢を取っているため、この取り組みがどのように評価されるかが重要になります。
アルバニアのAI閣僚導入は、世界各国の政府運営に大きな影響を与える可能性があります。特に汚職問題を抱える国々にとって、この取り組みは有効な解決策となるかもしれません。
成功すれば、他の国々も同様のシステムを導入する可能性が高く、政府運営のデジタル化が加速するでしょう。一方で、失敗すれば、AI技術の政府への統合に対する慎重論が強まることも予想されます。
いずれにしても、この実験的な取り組みは、21世紀の政府運営のあり方を考える上で重要な事例となることは間違いありません。技術の進歩と民主的な価値観をどのように両立させるか、その答えの一つがアルバニアから生まれるかもしれません。
アルバニアの世界初AI閣僚「Diella」の任命は、以下の重要なポイントを含む画期的な取り組みです:
この取り組みの成否は、21世紀の政府運営のあり方を決定づける重要な実験として、今後も注目していく必要があります。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
Diellaは、アルバニア政府が公共入札の汚職撲滅を目指して任命した世界初のAI閣僚です。政府と民間企業が結ぶ契約の入札プロセスを監視し、提案のメリットを客観的に評価する役割を担います。物理的には存在せず、AIによって仮想的に生成された存在です。
Diellaは、政府と民間企業間の契約における入札プロセスを監視し、提案のメリットを客観的に評価します。これまで各省庁が持っていた落札者を決定する権限を段階的にDiellaに移管することで、人的な主観や利害関係による腐敗リスクを排除し、透明性の高い入札を目指します。
アルバニアは汚職認識指数ランキングで180か国中80位と、汚職が課題となっています。EU加盟を目指す上で汚職撲滅が重要な課題であり、AIを活用して入札プロセスを透明化し、腐敗を減らすことを目指しています。
AIハックやプロンプトインジェクションといった技術的な攻撃のリスクがあります。また、AIシステムの判断基準やアルゴリズムの透明性を確保しないと、新たな形の不公正が生まれる可能性も懸念されています。セキュリティ対策と透明性の確保が重要です。
AI閣僚「Diella」は給料を受け取りません。人間の政治家とは異なり、経済的な利害関係から完全に独立した立場で業務を遂行できるという利点があります。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。