生成AIを使っていて、「いつも同じような回答しか返ってこない」「もっと多様なアイデアが欲しいのに、似たような提案ばかり」と感じたことはありませんか?実は、これは大規模言語モデル(LLM)に共通する「モード崩壊」という技術的な問題が原因です。
しかし、ノースイースタン大学とスタンフォード大学の研究チームが発表したVerbalized Sampling(バーバライズド・サンプリング)という手法を使えば、この問題を劇的に改善できることが分かりました。この技術は、モデルの再訓練を必要とせず、プロンプトの工夫だけで生成AIの隠れた創造性を解放する画期的な方法です。
本記事では、Verbalized Samplingの仕組みから具体的な実践方法まで、この革新的な技術について詳しく解説します。読み終える頃には、あなたも生成AIから今まで以上に多様で創造的な回答を引き出せるようになるでしょう。
目次

モード崩壊(Mode Collapse)とは、生成AIが本来持っている多様性を失い、特定の応答パターンに偏ってしまう現象です。例えば、「コーヒーに関するジョークを教えて」と5回質問しても、毎回全く同じジョークが返ってくる、といった状況がこれに該当します。
この問題は、画像生成においても顕著に現れます。以前は一つのボリュームのスタイルでしか生成できなかった画像が、Verbalized Samplingを適用することで、多くのアーティスティックなビジョンを持った多様な作品を生成できるようになります。
この問題の根本原因は「典型性バイアス」にあります。人間のアノテータ(評価者)が組織的に、より典型的で安全な応答を好む傾向があるため、AIモデルは訓練後のアライメント過程で特定の方向性にフォーカスされてしまうのです。
つまり、AIは本来多様な知識と表現能力を持っているにも関わらず、「最も安全なパンチライン」を選択することに特化してしまい、その結果として創造性や多様性が制限されてしまうのです。

Verbalized Samplingは、この問題を解決するために開発された、非常にシンプルでありながら効果的な手法です。その核心は、モデルに対して「一つの回答」を要求するのではなく、「複数の応答とその確率分布を言語化して明示的に提示する」よう促すことにあります。
従来のアプローチでは、モデルに一つの回答を要求していました。このとき、訓練後のアライメントによって特定の方向性にフォーカスされてしまいます。
これに対してVerbalized Samplingでは、以下のようなプロンプトを使用します:
ユーザーの質問に対し、もっともらしい応答を、5つ生成してください。
それぞれの応答の末尾に、その応答が全分布に対して持つ**推定確率(0.0から1.0の数値)を【0.2】**のような形式で付加してください。
応答は、全分布から無作為にサンプリングしてください。
このように分布そのものを求めることで、モデルは事前訓練中に学習した広範囲な知識にアクセスすることを強制され、関連アイテムの多様な分布そのものを表現しようとする傾向が生まれます。これにより、内在的多様性のアンロックが実現されるのです。
単純に「5つのアイディアを教えて」と要求するだけでは、均一な分布しか期待できません。しかし、分布レベルのプロンプトを使用することで、多様性を回復する上で決定的な役割を果たします。
モデルが各応答に対応する確率分布を考慮することで、事前学習中に学習した関連アイテムの多様な分布を表現しようとし、結果として内在する生成的多様性が回復されるのです。

Verbalized Samplingを実際に活用するための具体的な方法を、段階的に解説します。
効果的なVerbalized Samplingプロンプトは、以下の要素を含む必要があります:
Verbalized Samplingは、特に以下のような場面で威力を発揮します:
| 活用場面 | 従来の問題 | VS適用後の効果 |
| クリエイティブライティング | 同じような文体・構成に偏る | 多様な文体・視点での表現が可能 |
| オープンエンドQA | 典型的な回答に収束 | 複数の妥当な視点からの回答 |
| 社会的シミュレーション | 一面的な分析に留まる | 多角的な社会的視点を提供 |
| アイデア生成 | 似たような提案の繰り返し | 創造的で多様なアイデアの創出 |

この手法の効果は、研究結果からも明確に示されています。同じAIと同じプロンプトを使用しても、Verbalized Samplingを適用することで、従来は得られなかった5つのユニークなジョークや、多様なアーティスティックビジョンを持った画像生成が可能になります。
なぜこの手法が効果的なのかというと、分布レベルでのプロンプトが多様性を回復する上で決定的な役割を果たすからです。普通のリスト形式の要求では均一な分布しか期待できませんが、確率分布を明示的に要求することで、モデルの内在する生成的多様性が解放されます。
例えば、「子どもと喧嘩してしまったが、どのように対応したらよいか」という相談に対しても、Verbalized Samplingを適用することで、従来の画一的なアドバイスではなく、状況に応じた多様で実践的な対応策を得ることができます。
これは単にアイデアを出すためのプロンプト設計ではなく、バイアスがかからないような多様性を回復する言い方をすることによって、AIの本来の能力を引き出す技術なのです。

Verbalized Samplingは、生成AIのモード崩壊問題を解決する革新的な手法です。本記事の要点を以下にまとめます:
この技術を活用することで、あなたも生成AIから今まで以上に創造的で多様な回答を引き出し、より豊かなAI活用体験を実現できるでしょう。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
Verbalized Samplingは、生成AIの「モード崩壊」という問題を解決するプロンプト技術です。AIに複数の回答と、それぞれの回答がどれくらいの確率で適切かを示すように指示することで、AIがより多様なアイデアを生み出すように促します。
モード崩壊とは、生成AIが多様性を失い、いつも同じような回答ばかりを繰り返すようになる現象です。これは、AIが「典型性バイアス」によって、安全な回答ばかりを選ぶようになることが原因で起こります。
Verbalized Samplingを使うには、AIに質問する際に「完全な分布からサンプリングされた、対応する確率を持つ5つの応答を生成してください」のようなプロンプトを使用します。これにより、AIは多様な回答を生成しやすくなります。
Verbalized Samplingは、クリエイティブライティング、オープンエンドな質問応答、社会的シミュレーション、アイデア生成など、多様な視点やアイデアが求められる場面で特に役立ちます。AIからより創造的で多角的な回答を得ることができます。
Verbalized Samplingを使う際は、プロンプトで明確に応答の個数を指定し(通常は5つ)、各応答に対応する確率を必ず要求し、「完全な分布から」という表現を含めることが重要です。また、具体的な出力形式を指定すると、より効果的です。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。