フランスのMistral AIが新たにリリースしたMistral OCR 3が話題を集めています。同社は「世界最高のドキュメント理解API」と謳っていますが、実際の性能はどうなのでしょうか。私自身、日本語文書の処理において現在Gemini Flash 2.5の画像認識機能を活用していますが、今回Mistral OCR 3との比較検証を行った結果、興味深い発見がありました。
結論から申し上げると、日本語文書の処理精度においてはGeminiが圧倒的に優れているというのが私の実感です。しかし、Mistral OCR 3には独自の強みがあり、今後のOCR技術の選択肢として無視できない存在であることも確かです。
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Mistral OCR 3は、従来のOCRツールとは一線を画す革新的な機能を搭載しています。最も注目すべきは、OCR 2と比較して74%の総合処理向上を達成したという点です。
従来のOCRが単純にテキストを抽出するだけだったのに対し、Mistral OCR 3は文書全体を理解します。具体的には以下の要素を統合的に処理できます:
特に印象的なのは、テキストと画像を順序立てて出力する機能です。これにより、文書の構造と文脈を完全に保持したまま、下流のAIシステムやRAG(Retrieval-Augmented Generation)システムに最適な形式でデータを提供できます。

Mistral AIが公表したベンチマーク結果は確かに印象的です。内部テストセットにおける各モデルの性能比較を見ると、Mistral OCR 3の優位性は明らかです:
| モデル | 総合精度 | 数学 | 多言語 | スキャン文書 | 表 |
|---|---|---|---|---|---|
| Google Document AI | 83.42% | 80.29% | 86.42% | 92.77% | 78.16% |
| Azure OCR | 89.52% | 85.72% | 87.52% | 94.65% | 89.52% |
| Gemini-2.0-Flash-001 | 88.69% | 84.18% | 85.80% | 95.11% | 91.46% |
| GPT-4o-2024-11-20 | 89.77% | 87.55% | 86.00% | 94.58% | 91.70% |
| Mistral OCR 3 | 94.89% | 94.29% | 89.55% | 98.96% | 96.12% |
特に数学的表現(94.29%)と表の処理(96.12%)において圧倒的な性能を示しており、科学論文や技術文書の処理には非常に有効と考えられます。

しかし、実際に日本語文書で検証してみると、状況は大きく異なりました。私が行った比較テストでは、日本語のテキスト認識精度において、Gemini Flash 2.5が圧倒的に優れているという結果が得られました。
Mistral OCR 3を日本語文書に適用した際に観察された主な問題点は以下の通りです:
一方、Gemini Flash 2.5では同じ文書に対して、はるかに高い精度で日本語テキストを抽出できました。これは、Googleが長年にわたって日本語処理に投資してきた成果と考えられます。
ただし、Mistral OCR 3には興味深い特徴もありました。文書内の画像を自動的に切り出して保存する機能は、Geminiにはない独自の強みです。この機能により、文書の視覚的要素も含めた包括的な情報抽出が可能になります。

Mistral OCR 3の真価は、多言語対応にあると私は考えています。公式発表によると、数千の文字体系と言語に対応しており、以下の言語での高い精度を実現しています:
| 言語 | Azure OCR | Google Doc AI | Gemini-2.0-Flash | Mistral OCR 3 |
|---|---|---|---|---|
| ロシア語 | 97.35% | 95.56% | 96.58% | 99.09% |
| フランス語 | 97.50% | 96.36% | 97.06% | 99.20% |
| 中国語 | 91.40% | 90.89% | 91.85% | 97.11% |
特にヨーロッパ系言語での99%超の精度は驚異的です。グローバル企業にとって、単一のOCRソリューションで多言語文書を処理できるメリットは計り知れません。

Mistral OCR 3の革新的な機能の一つが、「Document-as-Prompt」です。これは、文書に対して具体的な指示を与えることで、必要な情報をJSON形式で構造化して抽出できる機能です。
例えば、100ページの契約書に対して「管轄法、解約条項、責任上限を抽出してJSON形式で出力せよ」と指示すれば、従来は熟練したアナリストが必要だった作業を自動化できます。これにより、法務、コンプライアンス、調達部門での業務効率が劇的に向上します。
処理速度も特筆すべき点です。単一ノードで毎分最大2,000ページの処理が可能とされており、大量文書の一括処理にも対応できます。バッチ処理機能により、GPU使用率の低い時間帯に効率的に処理を実行し、コストを最適化できます。
セキュリティ要件の厳しい組織向けに、オンプレミス展開オプションも提供されています。これにより、機密文書を外部クラウドに送信することなく、自社インフラ内で処理を完結できます。金融、医療、政府機関などの規制業界にとって、これは重要な選択肢となります。

価格面でも、Mistral OCR 3は競争力があります。1,000ページあたり2ドルという料金設定で、バッチAPI利用時は50%割引が適用され、1,000ページあたり1ドルまで下がります。
従来の企業向けOCRソリューションと比較すると、この価格設定は非常に魅力的です。特に大量の文書処理を行う企業にとって、年間数百万円のコスト削減効果が期待できます。

研究機関では、科学論文や学術誌のデジタル化にMistral OCR 3を活用し、下流のインテリジェンスエンジンがアクセス可能な形式に変換しています。これにより、研究協力の速度が向上し、科学的ワークフローが加速されています。
文化遺産を管理する組織や非営利団体では、歴史的文書や文化財のデジタル化に活用し、保存と広範囲なアクセスを実現しています。手書き文書や古い印刷物の処理能力は、この分野で特に価値があります。
カスタマーサービス部門では、文書やマニュアルをインデックス化された知識ベースに変換し、応答時間の短縮と顧客満足度の向上を実現しています。

現時点では、日本語文書の処理においてはGemini Flash 2.5が圧倒的に優れているというのが私の結論です。しかし、Mistral OCR 3には以下の場面で独自の価値があると考えています:

Mistral OCR 3は確かに革新的なOCRソリューションであり、特に以下の点で注目に値します:
しかし、日本語処理においてはまだGeminiに及ばないというのが現実です。今後のアップデートで日本語対応が改善されれば、より魅力的な選択肢になる可能性があります。
現時点では、用途に応じて使い分けることが最適解と考えられます。日本語文書の処理が中心であればGemini、多言語対応や企業向け機能を重視するならMistral OCR 3という選択が合理的でしょう。OCR技術の進歩は目覚ましく、今後の発展に期待したいと思います。
本記事の作成にあたり、以下の情報源を参考にしています:
Mistral OCR 3は、テキストと埋め込み画像の同時抽出、複雑な表構造の再現、手書き文字の認識、数式・記号の処理など、包括的なドキュメント理解能力を持つOCRツールです。特に、テキストと画像を順序立てて出力する機能が特徴で、文書の構造と文脈を保持したままAIシステムにデータを提供できます。
記事内の検証では、日本語のテキスト認識精度においてGemini Flash 2.5の方が優れているという結果が出ています。Mistral OCR 3では、日本語テキストの抜けや誤認識、文字化け、日本語特有のレイアウトへの対応不足といった課題が確認されています。
Mistral OCR 3は数千の文字体系と言語に対応しており、特にヨーロッパ系言語(ロシア語、フランス語、ドイツ語など)で99%を超える高い精度を実現しています。多言語文書を処理する際に有効なツールです。
Mistral OCR 3の料金は1,000ページあたり2ドルです。バッチAPIを利用する場合は50%割引が適用され、1,000ページあたり1ドルになります。大量の文書処理を行う企業にとってコスト効率が良い選択肢となります。
Mistral OCR 3は、多言語文書の一括処理、構造化データ抽出、画像付き文書の処理、オンプレミス環境での利用、大量バッチ処理といった用途に適しています。特にグローバル企業で統一ソリューションを求める場合や、セキュリティ要件が厳しい組織に適しています。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。