パーソル総合研究所の調査で、生成AIのヘビーユーザーほど残業時間が長いという興味深い結果が明らかになりました。
この一見矛盾した現象について、私は2つの主要な解釈があると考えています。
まず、元々仕事を多くやっている人ほど生成AIを使う意欲が高いという点。そして、AI活用により個人のキャパシティが増え、結果的に仕事量が増えているという点です。この記事では、この現象の背景にある心理的・構造的要因を詳しく解説し、組織と個人がどのように対応すべきかを考察します。
目次
パーソル総合研究所の調査によると、生成AI利用者の残業時間には明確な傾向が見られました:
興味深いことに、生成AI利用者は平均16.7%の業務時間削減を実現していたにも関わらず、全体の業務時間を短縮できた人は25%に留まりました。この数字は、時間削減効果があっても、それが必ずしも労働時間の短縮に直結していないことを示しています。
さらに注目すべきは、削減時間があると答えた人のうち60%が「浮いた時間で仕事をする」と回答している点です。これは、生成AIによる効率化が新たな仕事の創出につながっている可能性を示唆しています。
この現象の第一の解釈として、「鶏が先か卵が先か」という問題があります。つまり、もともと仕事に対する意欲が高く、多くの業務を抱えている人ほど、生成AIを積極的に活用する傾向があるということです。
仕事の意欲や任される業務の幅が広い人ほど、より積極的に新しいツールを使うのは自然な流れです。こうした人々は:
実際、セントルイス連邦準備銀行の調査では、生成AIの利用強度と時間削減効果には強い相関関係があることが確認されています。コンピューターと数学関連の職業では、労働時間の12%近くで生成AIを使用し、2.5%の時間削減を実現している一方、個人サービス業では1.3%の使用時間で0.4%の削減に留まっています。
第二の解釈は、生成AIの活用により個人の処理能力が向上し、結果的により多くの仕事を任されるようになるというものです。これは現代の「生産性のパラドックス」の新しい形態と言えるでしょう。
生成AIの導入により、仕事の内容に大きな変化が生じています。最新の研究では、R&D部門の従業員から以下のような証言が得られています:
「過去には、小さなタスクも一種の精神的な休憩を提供していました。今では複雑なタスクばかりです。複雑なタスクだけをやっていると、ある時点で頭が『もうダメ』と言うのです。一日中、簡単なタスクがほとんどない高度な概念的タスクに取り組んでいると、仕事が終わって家に帰っても、もう本当に考えることができません。」
この証言は、生成AIが単純作業を自動化する一方で、人間により高度で複雑な作業を求める構造的変化を示しています。
IT分野の専門家からは、生成AIの活用により同時に扱えるプロジェクト数が増加し、新たな負荷が生まれているという指摘もあります:
「AIがプログラミングの一部を引き受けてくれれば、一人の人間がより多くのトピックに同時に関わることができます。これは一種の過負荷につながる可能性があります。人間として、自分でプログラミングするのではなく主に監視する立場になると、10のプロジェクトを同時に抱え、もはやこの『単純な』タスクの範囲を持たなくなる可能性があります。」
この現象は日本だけでなく、海外でも確認されています。マッキンゼーの2024年調査では、組織の65%が定期的に生成AIを使用しており、前年の約2倍に増加していることが報告されています。
特に注目すべきは、生成AIの高パフォーマンス企業は平均3つの業務機能でAIを活用している一方、その他の企業は平均2つに留まっているという点です。これは、より積極的にAIを活用する組織ほど、より多くの領域で業務を拡大している可能性を示唆しています。
一方で、生成AIの普及に伴い「テクノストレス」という新たな問題も浮上しています。最新の研究では、以下のような生成AI特有のストレス要因が特定されています:
私は、この調査結果を必ずしも悪いことだとは考えていません。重要なのは、なぜ仕事が増えているのか、そしてそれが本人の意志によるものなのかという点です。
やりたくてやっている分には、価値が上がっていいのではないかと思います。問題は、やりたくなくてやらされているような状況になることです。
個人的には、基本的にやりたいからやっているという側面が強いと感じています。もちろん、状況によってはやらざるを得ない場面もありますが、それも含めて好きで選んでいる部分があります。特に独立している場合は、この傾向がより顕著になります。
「AI使えば使うほど仕事が増える」ということではないと考えています。むしろ、生成AIを使っている人は:
という構造的な関係があるのではないでしょうか。
Google Cloudの研究では、生成AI導入時の重要な原則として以下が挙げられています:
| 原則 | 具体的な取り組み | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 人間中心の設計 | AIシステムを人間がフィードバックループに参加できるよう設計 | 従業員の自律性確保 |
| 多様な指標の活用 | 効率性だけでなく、満足度、ウェルビーイングも測定 | バランスの取れた評価 |
| 継続的なテストと監視 | AI システムの性能と影響を定期的に評価 | 問題の早期発見と改善 |
個人としては、以下の点を意識することが重要です:
セントルイス連邦準備銀行の最新調査では、2024年8月から2025年8月にかけて、生成AIの全体的な採用率が44.6%から54.6%に増加したことが報告されています。職場での利用も33.3%から37.4%に上昇しており、この傾向は今後も続くと予想されます。
重要なのは、生成AIによる時間削減効果が全労働時間の1.6%に相当し、これが労働生産性を最大1.3%向上させる可能性があるという点です。しかし、これらの利益が実際の生産性統計に現れるかどうかは、企業がどのようにAI導入に対応するかにかかっています。
生成AIヘビーユーザーほど残業時間が長いという現象は、単純にAIが仕事を増やしているわけではありません。むしろ、以下の複合的な要因によるものと考えられます:
この現象を理解し、適切に対応することで、生成AIの恩恵を最大化しながら、働く人々のウェルビーイングを維持することが可能になります。重要なのは、技術の進歩を人間中心の視点で捉え、持続可能な働き方を模索し続けることです。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:

Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、
AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、
チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。