
2025/07/19(土)
Amazonが2025年7月にリリースしたエージェンティックIDE「Kiro」が、開発者コミュニティで大きな注目を集めています。このツールの最大の特徴は、AI開発ツールが従来の「バイブコーディング」(Vibe Coding。感覚的なコーディング)から「バイアブルコーディング」(Viable Coding。実用的なコーディング)への転換を支援することです。
私自身、このKiroのコンセプトに強い可能性を感じています。なぜなら、多くの開発者が直面している「プロトタイプは作れるけれど、本番運用に耐えるシステムへの移行が困難」という課題を、根本的に解決しようとしているからです。
Kiroは単なるコード生成ツールではありません。スペック駆動開発という手法を通じて、開発の初期段階から仕様を明確にし、AIエージェントと協調しながら要件を具体化することで、より良いアプリケーションを作り上げることを目指しています。
目次
Kiroの核心となる「スペック駆動開発」とは、開発プロセスを構造化し、要件から実装まで一貫して管理する手法です。この手法では、以下の3つの主要ドキュメントが自動生成されます:
ドキュメント | 目的 | 内容 |
requirements.md | 要件定義 | EARS形式でのユーザーストーリーと受け入れ基準 |
design.md | 技術設計 | データフローダイアグラム、インターフェーススキーマ、エンドポイント設計 |
tasks.md | 実装計画 | タスクとサブタスクの依存関係に基づく実装順序 |
例えば、「レビューシステムを追加したい」とプロンプトすると、Kiroは自動的に閲覧・作成・フィルタリング・評価といったユーザーストーリーを生成します。その後、技術設計の自動生成とドキュメント化が行われ、スペック要件を基にしたデータフローダイアグラムやインターフェーススキーマが作成されます。
このアプローチの優れた点は、要件とコードベースの同期を保てることです。開発途中で仕様が変更されても、機能を自動または手動でスペックを更新することで、ドキュメントとコードの乖離を防げます。
Kiroのもう一つの革新的な機能が「フック」です。これはイベント駆動型の自動化機能で、ファイルの保存・作成・削除や手動トリガー時にAIエージェントがバックグラウンドでタスクを実行します。
具体的には、経験豊富な開発者のように見落としや煩雑な作業を自動で補完し、開発者の負担を軽減します。一度設定すると、以降は自動的にチェックやドキュメント更新が行われるため、毎回定型的に行わなければならない面倒な作業から解放されます。
この機能により、開発者は本質的な問題解決により多くの時間を割けるようになります。例えば、コードの保存時に自動的にユニットテストが生成されたり、結合テスト、ローディング状態の処理、モバイル対応、アクセシビリティ要件などの必要なテストが自動的に含まれるようになります。
Kiroは開発環境としても優秀な特徴を備えています:
これらの特徴により、既存の開発環境を維持しながら、AIによる新しい開発体験を追加できます。開発者にとって学習コストが低く、スムーズな移行が可能です。
私がKiroに特に注目している理由の一つは、エンジニアではない人でも、正しいエンジニアリングの流れを学べる可能性があることです。
スペック駆動開発のプロセスを通じて、ドキュメントが整理され、体系的に作られていく流れを追うことで、「そういうふうに整理してやっていくのか」ということが理解できるようになります。これは、技術的なスキルだけでなく、プロジェクト管理や要件定義のスキル向上にもつながる可能性があります。
タスク分割と実装の段階では、要件に基づいてタスクとサブタスクが依存関係に従って順序付けされ、要件と紐付けて管理されます。この過程を観察することで、複雑なプロジェクトをどのように分解し、管理していくかの手法を学ぶことができます。
現在、Kiroはプレビュー版として提供されており、無料で利用できます。ただし、「Unprecedented demand」(前例のない需要)により、ウェイトリストでの待機が必要な状況です。これは、開発者コミュニティからの期待の高さを物語っています。
私自身も早めにウェイトリストに登録しましたが、まだ利用できない状況です。しかし、この待機時間も決して無駄ではありません。なぜなら、このようなツールは時間をかけて習得する価値があるからです。
実際にKiroが利用可能になったら、どのような体験や開発フローになるのか、非常に興味深いところです。特に、スペック駆動開発がどの程度実用的で、従来の開発プロセスと比較してどのような利点があるのかを検証したいと考えています。
Amazon Kiroは、単なるAI開発ツールを超えた、開発プロセス全体を革新する可能性を秘めています。主要なポイントを整理すると:
Kiroが目指す「Viable Coding(実用可能なAI開発)」の実現により、プロトタイプから本番システムへの移行がより確実で効率的になることが期待されます。開発者にとって、これは単なる生産性向上ツールではなく、開発に対する考え方そのものを変える可能性のあるツールと言えるでしょう。
Amazon Kiroは、Amazonが提供するAIを活用した新しい開発環境(エージェンティックIDE)です。スペック駆動開発という手法を取り入れ、開発者が感覚的なコーディングから、より実用的なコーディングへと移行することを支援します。プロトタイプ開発だけでなく、本番運用に耐えうるシステムの構築を目指しています。
スペック駆動開発とは、開発プロセスを構造化し、要件定義から実装まで一貫して管理する手法です。Kiroでは、要件定義(requirements.md)、技術設計(design.md)、実装計画(tasks.md)の3つの主要ドキュメントが自動生成され、要件とコードベースの同期を保ちながら開発を進めます。
Kiroのフック機能は、イベント駆動型の自動化機能です。ファイルの保存、作成、削除などのイベントや、手動トリガー時にAIエージェントがバックグラウンドでタスクを実行します。これにより、コードの保存時に自動的にユニットテストを生成したり、ドキュメントの更新を自動化するなど、開発者の負担を軽減します。
はい、Kiroは既存の開発環境との高い互換性を持っています。Model Context Protocol (MCP)に対応しており、外部AIツールとの連携が容易です。また、VS Codeの設定やプラグインをそのまま利用できるため、開発者は学習コストを抑えつつ、スムーズにKiroへ移行できます。Mac、Windows、Linuxといったクロスプラットフォームにも対応しています。
Kiroは現在プレビュー版として提供されており、無料で利用できます。ただし、非常に高い需要があるため、ウェイトリストに登録して順番待ちをする必要があります。ウェイトリストへの登録はKiroの公式サイトから行えます。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。