
2025/07/19(土)
「AIによってエントリーレベルの仕事が激減する」という予測が広く語られる中、興味深い反対意見が注目を集めています。大手IT企業コグニザント(Cognizant)は、AIの導入によって深い専門知識が必要なくなり、むしろ新卒者やジュニア人材の価値が高まるという見解を示しています。
この主張は、従来の「AIが人間の仕事を奪う」という単純な図式とは異なる視点を提供します。AIを脅威として捉えるのではなく、エントリーレベルの人材が自分の能力以上のことを実現できるツールとして活用する可能性に焦点を当てているのです。
本記事では、この興味深い視点を詳しく分析し、AIがもたらす新しい働き方の可能性について考察していきます。
目次
コグニザントの主張を裏付ける具体的なデータがあります。同社の調査によると、AIの導入によって上位50%の生産性が17%向上した一方、下位では37%という大幅な向上を記録しました。
この数字が示すのは、AIの恩恵を最も受けるのが必ずしも既に高い生産性を持つ企業ではないということです。むしろ、従来の方法で苦戦していた企業や、経験の浅い人材が多い組織において、AIの効果がより顕著に現れる可能性があります。
コグニザントは35万人という大規模な従業員を抱える企業であり、その実績に基づいた見解として注目に値します。同社の売上高は2.5兆円規模に達し、実際のビジネス現場でAIの効果を検証できる立場にあります。
エントリーレベルの人材がAIを使うことによって、自分の能力以上のことができるようになるという点については、確実に正しいと考えられます。これには以下のような理由があります。
専門知識の民主化
AIによって、これまで長年の経験や専門的な学習が必要だった知識やスキルが、より簡単にアクセスできるようになります。例えば、複雑なデータ分析や専門的な文書作成、プログラミングなどの分野で、AIがサポートすることで初心者でも高品質な成果物を作成できるようになります。
学習コストの削減
従来であれば数年かけて習得する必要があったスキルを、AIの支援により短期間で実用レベルまで引き上げることが可能になります。これにより、エントリーレベルの人材でも即戦力として活躍できる場面が増えています。
創造性と判断力の重要性向上
AIが技術的な作業を担当することで、人間はより創造的な思考や戦略的な判断に集中できるようになります。これらの能力は経験年数よりも個人の資質に依存する部分が大きく、若手人材にとって有利に働く可能性があります。
一方で、この楽観的な見方には重要な前提条件があります。AIを使うことによって、上級人材や経験者の一人当たりの生産性も大幅に向上するという点を考慮する必要があります。
例えば、AIの支援により上級人材が従来の3倍の生産性を発揮できるようになったとします。同時に市場全体の仕事量が2倍に増えたとしても、必要な上級人材の数は従来の3分の2程度で済むことになります。この場合、結果的に職種自体の需要が減少する可能性があります。
この現象は特に以下のような分野で顕著になると予想されます:
AIの影響は業界や職種によって大きく異なります。この違いを理解することが、将来の働き方を考える上で重要です。
コールセンター、メール対応、チャットサポートなどの分野では、AIが人間の業務をほぼ完全に代替できる可能性があります。これらの分野では、従来一人で対応していた業務を、AIが100人分の処理能力で実行できるようになると予想されます。
実際に、2025年7月時点で北米のテック企業では新卒採用がパンデミック前比50%減少しており、プログラミング・法律・金融・小売分野でAIによる業務自動化が急速に進行しています。新卒失業率は5.8%と、全体失業率3.6%を上回る逆転現象も発生しています。
一方で、AIでできることもあるものの、結局人間がいなければ完結できない業務も多く存在します。これらの分野では、AIと人間の協働により、むしろ人材需要が増加する可能性があります。
例えば、製薬・医療分野では、AIを活用した分子予測や臨床試験シミュレーションが進む一方で、最終的な判断や患者との対話、倫理的な配慮などは人間が担う必要があります。医療機関の38%が診断支援にAIを導入していますが、これは医師を置き換えるのではなく、医師の判断を支援するツールとして活用されています。
AIの導入は単純に既存の仕事を効率化するだけでなく、働き方そのものを根本的に変化させる可能性があります。
少ない手間で多くのことができるようになることで、あらゆる業務のソフトウェア化が一層進むと予想されます。これにより、物理的な制約から解放された新しい働き方が可能になります。
例えば、リモートワークの質的向上、グローバルなチーム編成の容易化、24時間体制での業務継続などが実現しやすくなります。これらの変化は、地理的な制約や時間的な制約を受けにくいエントリーレベルの人材にとって、新しい機会を提供する可能性があります。
AIによるデジタル労働が拡大することで、それを補完するための人間の労働需要も増加すると考えられます。AIが処理できない例外的なケース、創造的な判断が必要な場面、人間的な温かみが求められるサービスなどの分野では、むしろ人材需要が高まる可能性があります。
エントリーレベルの人材がAI時代に価値を発揮するためには、従来とは異なるスキルセットが求められます。
大規模言語モデル(LLM)の基本操作やプロンプトエンジニアリングの基礎、AI倫理・ガバナンスの理解などが基本的なスキルとして重要になります。これらは従来の専門的な技術スキルと比較して、習得のハードルが比較的低く、エントリーレベルの人材でも短期間で身につけることが可能です。
AIの出力を適切に評価し、必要に応じて修正や改善を行う能力が重要になります。AIが生成した内容の品質チェック、ファクトチェック、文脈に応じた調整などのスキルは、技術的な専門知識よりも、批判的思考力や常識的な判断力に依存する部分が大きいです。
AIが定型的な作業を担当することで、人間はより創造的で戦略的な思考に集中できるようになります。新しいアイデアの創出、複雑な問題の分析、革新的なソリューションの提案などの能力は、経験年数よりも個人の資質や思考の柔軟性に依存する傾向があります。
AIがエントリーレベル人材に与える影響については、楽観的な見方と悲観的な見方の両方に合理性があります。重要なのは、どちらか一方の展開が確実に起こるわけではなく、業界、職種、個人のスキル、組織の対応などによって結果が大きく異なるということです。
エントリーレベル人材がAI時代に価値を発揮するためには、以下の条件が重要になると考えられます:
一方で、エントリーレベル人材の価値を最大化するためには、組織側の取り組みも重要です。適切な研修プログラムの提供、AI活用のためのインフラ整備、新しい評価制度の構築などが求められます。
コグニザントのような先進的な企業の取り組みは、他の組織にとっても参考になる事例として注目されています。
AIがエントリーレベル人材に与える影響について、以下の重要なポイントが明らかになりました:
結論として、AIがエントリーレベル人材の価値を向上させる可能性は確実に存在しますが、その実現には個人の継続的な学習と組織の適切な支援が不可欠です。単純に「AIが仕事を奪う」「AIが仕事を創る」という二元論ではなく、どのようにAIと協働し、相互の強みを活かしていくかという視点が重要になるでしょう。
大手IT企業コグニザントの見解では、AIは深い専門知識がなくても新卒者やジュニア人材が自分の能力以上のことを実現できるツールとなり、むしろ価値を高めるとしています。AIが技術的な作業をサポートすることで、創造性や判断力といった個人の資質がより重要になるためです。
コグニザントの調査によると、AI導入による生産性向上は、既に高い生産性を持つ企業よりも、従来の方法で苦戦していた企業や経験の浅い人材が多い組織でより顕著に現れる傾向があります。下位企業の生産性向上が、上位企業よりも大幅に高いというデータがあります。
はい、あります。特に定型的な業務が多い職種(データ入力、基本的な分析業務など)、明確な手順が確立されている業務、大量処理が求められる分野では、AIによって上級人材の生産性が向上することで、結果的に職種自体の需要が減少する可能性があります。
基礎的なAI活用スキル(LLMの基本操作、プロンプトエンジニアリングなど)、AIとの協働能力(AIの出力評価、修正)、創造性と問題解決能力が重要になります。技術的な専門知識よりも、批判的思考力や常識的な判断力、柔軟な思考力が重視される傾向があります。
AIエージェントの設定、監視、最適化、トラブルシューティングなどを行う仕事です。技術的な専門知識よりも、システム全体を理解し適切に運用する能力が求められます。柔軟な思考力や問題解決能力、コミュニケーション能力などが重視され、エントリーレベルの人材でも活躍できる可能性があります。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、
AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、
チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。