
2025/07/23(水)
AI開発の現場で急速に普及しているMCP(Model Context Protocol)ですが、その将来性について疑問を抱く開発者も少なくありません。確かにMCPは、データソースやAPIごとに個別実装を行う必要がなく、標準化により一貫性を提供するという大きなメリットがあります。しかし、接続の安定性に課題があったり、完璧とは言えない現状もあり、適切な期待値を設定することが重要です。
本記事では、開発者がMCPを導入・運用する際に直面する5つの重要な疑問について、本の参考記事を踏まえて確認していきます。MCPの現在の立ち位置から将来の展望まで、実践的な視点で理解を深めていきましょう。
目次
MCPの最大の特徴は、データソースやAPIごとに個別に実装を作らなくても使うことができるという点にあります。従来のAI連携では、各サービスやデータソースに対して個別のコネクターや統合コードを開発する必要がありましたが、MCPはこの課題を標準化によって解決します。
既存のオープンAPI使用を活用するサービスと比較すると、MCPは標準化により一貫性を提供し、特にエンタープライズ用途での拡張性や保守性を大幅に向上させます。これにより、開発チームは個別の統合作業に時間を費やすことなく、より本質的な機能開発に集中できるようになります。
しかし、この標準化のメリットを享受するためには、MCPプロトコルに対応したシステム設計が前提となり、既存システムからの移行には相応の工数が必要になることも理解しておく必要があります。
MCP導入時に最初に直面するのが、ローカル展開とリモート展開のどちらを選択するかという問題です。それぞれに明確なトレードオフが存在します。
ローカルMCPは簡単に導入でき、技術者向けでは手軽に利用できます。開発環境での検証や小規模なプロトタイプ開発には最適で、ネットワーク遅延もなく高速な処理が期待できます。
しかし、一般ユーザーには使いにくいという大きな課題があります。技術的な知識を持たないエンドユーザーにとって、ローカル環境でのMCP設定や管理は複雑すぎる場合が多いのです。
一方、リモートデプロイメントはスケーラビリティの課題を解決し、多数のユーザーが同時に利用できる環境を提供します。管理の一元化も可能になり、セキュリティポリシーの統一も図れます。
ただし、互換性問題やトランスポートの複雑さという課題があります。ネットワーク経由での通信になるため、レイテンシーの問題や、異なるバージョン間での互換性確保が重要な検討事項となります。
展開方式 | メリット | デメリット | 適用場面 |
ローカル | ・導入が簡単 ・高速処理 ・技術者向けに最適 |
・一般ユーザーには困難 ・スケーラビリティに限界 |
開発・検証環境 |
リモート | ・スケーラビリティ確保 ・管理の一元化 ・一般ユーザーも利用可能 |
・互換性問題 ・ネットワーク遅延 ・トランスポートの複雑さ |
本番・エンタープライズ環境 |
MCPのセキュリティ実装において、特に注意が必要なのが認証周りの設計です。MCPの許可仕様はOAuth2.1を採用しているものの、実際の実装では様々なバリエーションが存在します。
特に課題となるのが、外部IDプロバイダーとMCPセッション間のトークンマッピングです。サードパーティの認証システムを利用する場合、外部から発行されたトークンとMCP内部で管理するトークンを適切に紐付ける仕組みが必要になります。
この実装では、トークンマッピングテーブルの維持、セキュアなデータベース運用、トークン無効化時の時間差対応など、複数の技術的課題を同時に解決する必要があります。
本番環境では、以下の要素が必須となります:
特に、MCPサーバーが広範な権限を持つ場合、秘密データや特権操作へのアクセス時には最新のMCP認証ドラフトに準拠することが重要です。適当にスコープを設定してしまうケースも見受けられますが、これはセキュリティリスクを大幅に増大させる危険な実装です。
MCPは確かに広く使われており、業界標準としての地位を確立しつつありますが、完全に安泰というわけではありません。重要な技術的限界と競合の存在を理解しておく必要があります。
MCPは現世代AIシステム向けに設計されており、人間が監督する単一エージェントのインタラクションを前提としています。これは現在の多くのAIアプリケーションには適していますが、将来的な技術進歩を考えると制約となる可能性があります。
特に、マルチエージェントシステムや自律的なタスク実行には別の領域として対応が必要で、MCPだけでは完全にカバーできない用途が存在します。
AIプロトコル戦争は既に始まっており、GoogleのA2AプロトコルがMCPと補完関係にある一方で、OpenAIのMCP採用方針でバランスが変化するなど、今後競争が激化する可能性が高いと考えられます。
MCPが早い時期から利用者を獲得してきた実績はありますが、そう長くは単独でトップの地位にいられない証拠がたくさんあるというのが現実です。新たなプロトコルが登場する可能性も十分に考慮すべきでしょう。
最終的に開発者が最も知りたいのは、「なぜ他の選択肢ではなくMCPを使う必要があるのか」という点でしょう。
MCPはデータストレートを一度実装するだけで、互換性のあるAIクライアントでは誰でもそれを利用できるという互換性の高さが最大の価値です。これにより、開発工数の削減と保守性の向上を同時に実現できます。
しかし、投資判断においては以下の点を慎重に検討する必要があります:
私は、MCPが次のAIのハイプサイクルでトップに留まるかどうかは、仕様のエレガンスや話題性ではなく、現在使われているMCPプロジェクトがどのような成果を上げるかにかかっていると考えています。
最終的には、開発者コミュニティがMCPが適切な存在であり続けるかどうかを決定することになるでしょう。技術選択においては、短期的な利便性と長期的な拡張性のバランスを慎重に評価することが重要です。
MCPは確かに現在のAI開発において重要な役割を果たしており、標準化による開発効率の向上という明確なメリットを提供しています。しかし、以下の重要なポイントを理解した上で導入を検討することが必要です:
MCPは現在において非常に有用なプロトコルですが、完璧ではありません。適切な期待値を設定し、プロジェクトの要件と照らし合わせて慎重に導入を検討することで、その真価を発揮できるでしょう。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
MCPは、データソースやAPIごとに個別の実装をせずに、AIクライアントがデータを利用できるようにするプロトコルです。標準化により、異なるサービス間の一貫性を保ち、エンタープライズ用途での拡張性や保守性を向上させます。
ローカル導入のメリットは、導入が簡単で高速な処理が可能な点です。開発環境での検証や小規模なプロトタイプ開発に適しています。デメリットは、技術者以外には使いにくいことと、スケーラビリティに限界があることです。
リモートデプロイメントでは、スケーラビリティの確保や管理の一元化ができますが、互換性問題やネットワーク遅延、トランスポートの複雑さといった課題があります。異なるバージョン間での互換性確保や、ネットワーク経由での通信におけるレイテンシー対策が必要です。
MCPのセキュリティで特に重要なのは、認証周りの設計、特に外部IDプロバイダーとMCPセッション間のトークンマッピングです。適切なスコープベースのアクセス制御、ローカルでのトークン検証、ツール利用の監査ログやモニタリングも必須です。
MCPは現世代AIシステム向けに設計されており、業界標準としての地位を確立していますが、GoogleのA2Aプロトコルなど競合も存在します。マルチエージェントシステムや自律的なタスク実行への対応など、将来的な技術進歩への対応が課題となります。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、
AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、
チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。