
2025/07/24(木)
2025年7月、AI業界に衝撃的なニュースが駆け巡りました。AIの性能を評価するLM arenaのオープンソースモデルランキング(2025年7月18日に発表)で、中国企業が開発したLLMがトップ3を完全に独占したのです。1位にMoonshot AIの「Kimi K2」、2位にDeepSeekの「R1」、3位にアリババクラウドの「Qwen3」がランクインし、従来の米国勢優位の構図が一変しました。
この結果は、単なる技術的な優劣を示すものではありません。オープンソースAIの世界で中国勢が主導権を握ることで、今後のAIエコシステム全体に大きな影響を与える可能性があります。特に、これらのモデルが市場シェアを拡大した場合、中国系のAIエコシステムが世界標準となるリスクも考えられます。
本記事では、この劇的な変化の背景と、各モデルの特徴、そして日本を含む他国への影響について詳しく解説します。
目次
LMアリーナは、世界中のLLMを公平に評価する最も権威のあるベンチマークの一つです。このプラットフォームでオープンソースモデルに絞り込んだランキングを見ると、現在の状況が明確に浮かび上がります。
1位:Kimi K2(Moonshot AI)
月之暗面(Moonshot AI)が開発したKimi K2は、1兆パラメータのMoE(Mixture-of-Experts)アーキテクチャを採用した革新的なモデルです。特に注目すべきは、エージェント向けLLMとして設計されている点で、検索機能や数学ソフトウェアなどのツール連携型の多段階タスクに優れた性能を発揮します。7月11日に公開されたこの新型モデルは、コーディング能力とマルチエージェントタスクの評価で突出した結果を示しています。
2位:DeepSeek R1
DeepSeekが開発したR1モデルは、2025年1月の公開以来「ディープシークショック」と呼ばれる現象を引き起こしました。低コスト・低消費電力という特徴により、ChatGPTをダウンロード数で上回る人気を獲得し、AI関連株を中心に世界の金融市場を急変させるほどの影響力を持ちました。
3位:Qwen3(アリババクラウド)
アリババクラウドのQwen3は、前回のHugging Face Leaderboard v2でQwen2-72B-Instructが1位を獲得するなど、継続的に高い評価を受けているシリーズの最新版です。中国国内での豊富な実用事例を背景に、実践的な性能を重視した設計となっています。
興味深いことに、分野別のランキングを見ると、中国勢の強さがより明確になります。
プログラミング関連のタスクにおいて、上位は以下のような構成となっています:
1位はクローズドのGemini 2.5 Proですが、オープンソースでランクインしているオープンソースはすべて中国製です。
この結果は、中国のAI企業がソフトウェア開発支援という実用的な分野で特に力を入れていることを示しています。
画像認識分野を見ると、状況は少し異なります。全体的にクローズソースモデルが優位な状況が続いています。オープンソースでは、Gemma 3が最上位です。
従来、オープンソースLLMの分野ではMetaのLlamaシリーズやGoogleのGemmaシリーズが強い存在感を示していました。しかし、現在のランキングを見ると、これらのモデルは期待されたほどの成果を上げていません。
特に注目すべきは、Llamaシリーズがあまり振るわない状況です。Llama4 Maverickは存在するものの、上位ランキングには入っていません。これは、Metaのオープンソース戦略に何らかの変化が必要であることを示唆しています。
一方で、GoogleのGemmaシリーズは一定の健闘を見せており、特にビジョン分野では競争力を維持しています。しかし、テキスト処理の分野では中国勢に大きく水をあけられているのが現状です。
この状況は、単なる技術競争を超えた地政学的な意味を持っています。中国のAI企業がオープンソース化を戦略的に推進している背景には、米中技術摩擦や地政学リスクへの対抗策という側面があります。
中国企業がオープンソース化を積極的に進める理由として、以下の点が考えられます:
これらのオープンソースモデルが市場シェアを取った場合、中国系エコシステムが急速に広がる可能性があります。その先にどのような影響があるかは、慎重に考える必要があるでしょう。技術的な依存関係が生まれることで、将来的な選択肢が制限される可能性も否定できません。
この状況を受けて、米国でも対抗策が検討されています。トランプ政権がAIアクションプランを発表した際、オープンソースへの取り組みも大幅に強化されることが示されました。
このオープンソース重視の動きの中で、以下の企業の対応が注目されています:
これらのプレイヤーには、中国勢に対抗できる高性能なオープンソースモデルの開発が期待されています。
この激しい競争の中で、日本の立ち位置は決して楽観的とは言えません。現在、日本企業も独自のLLM開発を進めていますが、グローバルな競争においては厳しい状況にあります。
主要な日本企業の動向を見ると:
しかし、これらの取り組みも、グローバルな競争の激しさを考えると、相当な困難が予想されます。特に以下の点が課題となっています:
2025年7月のLMアリーナランキングは、オープンソースLLM界における中国勢の圧倒的な優位性を明確に示しました。この変化は以下の重要なポイントを含んでいます:
この状況は、AI技術の未来を左右する重要な転換点と言えるでしょう。技術的な競争を超えて、どの国・地域のAIエコシステムが世界標準となるかという戦略的な競争が本格化しています。日本を含む各国は、この新たな競争環境に適応するための戦略的な対応が求められています。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
2025年7月のLMアリーナのランキングでは、Moonshot AIの「Kimi K2」、DeepSeekの「R1」、アリババクラウドの「Qwen3」がトップ3を独占しました。これにより、オープンソースLLM分野で中国勢が大きな存在感を示すようになりました。
Kimi K2は、Moonshot AIが開発したエージェント向けLLMです。1兆パラメータのMoEアーキテクチャを採用し、検索機能や数学ソフトウェアなどのツール連携型の多段階タスクに優れた性能を発揮します。特にコーディング能力とマルチエージェントタスクの評価が高いです。
DeepSeek R1は、低コスト・低消費電力という特徴がChatGPTを上回る人気を獲得し、AI関連株を中心に世界の金融市場を急変させるほどの影響力を持ったため、「ディープシークショック」と呼ばれる現象を引き起こしました。
中国企業がオープンソース化を積極的に進める理由として、技術エコシステムの構築、技術輸出規制の影響軽減、開発者コミュニティの獲得などが考えられます。米中技術摩擦や地政学リスクへの対抗策という側面もあります。
日本企業はLLM開発において、投資規模や開発リソースの差、世界トップレベルのAI研究者の確保の困難さ、大規模な学習データの確保と処理能力の制約、開発者コミュニティや関連ツールの整備の不十分さといった課題に直面しています。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。