
2025/08/06(水)
RAGシステムを構築することは、まさにスタートライン。本当に重要なのは、そのシステムがエンドユーザーにとって実用的で信頼できるものかを正確に測定することです。
この完全ガイドでは、RAGシステムの精度と品質を包括的に評価する方法をお伝えします。検索精度、再現率、コンテキストの関連性、回答精度といった重要指標の測定方法から、長期的な安定性を維持するための調整テクニックまで、実践的なノウハウを網羅しています。
こんな方におすすめです:
✅ AI開発者・エンジニア
✅ データサイエンティスト
✅ RAGシステムを運用中の方
✅ 生成AIの品質向上を目指す方
RAGシステムは、「情報検索」「情報拡張」「回答生成」という3つの重要なステージでエラーが発生する可能性があります。各コンポーネントを体系的に評価・調整することで、ユーザーのニーズを満たす信頼性の高い生成AIアプリケーションを維持できるようになります。
RAGって言葉はよく聞きますが、「情報検索」「情報拡張」「回答生成」という3つのステージがどんな流れになっているのか、イメージが湧かないんですが…?
簡単に言うと、RAGは「賢い図書館システム」のような仕組みです。まず「情報検索」で質問に関連する資料を図書館から見つけてきます。次に「情報拡張」でその資料を整理して、AIが理解しやすい形にまとめます。最後に「回答生成」で、整理された情報を使ってAIが自然な文章で答えを作ります。例えば「東京の人口は?」という質問なら、①人口データを検索→②最新の統計情報を整理→③「東京都の人口は約1400万人です」と回答生成、という流れになります。
目次
生成フェーズにおいて、ハルシネーションは深刻な問題です。これは、LLMがコンテキストを無視して、根拠のない情報を作り出してしまう現象を指します。
⚠️ 注意すべきリスク:
拡張プロセスでは以下のような課題があります
💡 メリット: コンテキストの質が向上することで、より一貫性があり関連性の高い回答を生成できます。
検索において重要な課題
RAG評価を効率化するために、実績のある3つのフレームワークをご紹介します。
Ragas(RAG Assessment)とは?
質問、理想的な回答、関連コンテキストのデータセットを使用して、RAGシステムが生成した回答を正解データと比較するフレームワークです。
主要な評価指標:
Ragasのメリット:
検索品質と回答品質の両方を定量的に測定でき、改善点が明確になります。
Quotient AIとは?
開発者が評価用データセットをベンチマークとしてアップロードし、異なるプロンプトやLLMをテストできるプラットフォームです。
便利な機能:
ポイント:
インデックス化、チャンク分割、検索、コンテキスト関連性など、RAGパイプラインの全段階を統合的に評価できます。
Arize Phoenixとは?
RAGシステムの回答生成過程をステップバイステップで追跡・可視化できるオープンソースツールです。
主要機能:
Phoenixの強み:
直感的なインターフェースで、検索・コンテキスト・生成の全プロセス構造と内部ステップが一目で理解できます。
Ragas、Quotient AI、Arize Phoenixと3つも紹介されていますが、結局どれを選べばいいんでしょうか?違いがよく分からないんです…
用途によって使い分けるのがベストです。初心者の方はRagasから始めてください。質問と回答のペアがあれば簡単に評価でき、基本的なメトリクス(忠実度、関連性など)がすぐに測定できます。本格的な実験や比較検証をしたい場合はQuotient AIが便利で、複数のLLMやプロンプトを自動で比較してくれます。システムの内部動作を詳しく分析したい場合はArize Phoenixが最適で、どこで問題が起きているか視覚的に特定できます。まずはRagasで現状把握し、必要に応じて他のツールを追加するのがおすすめです。
よくある問題:
💡 解決策:データのチャンク化に注目しましょう
1. 文書チャンクサイズの調整
チャンクサイズはデータの粒度を決定し、精度・再現率・関連性に影響します。埋め込みモデルのトークン制限に合わせて設定することが重要です。
2. 適切なチャンクオーバーラップの確保
チャンク間でデータポイントを共有することで、コンテキストを保持できます。重複除去やコンテンツ正規化戦略と併用しましょう。
3. データタイプに特化したチャンク分割戦略の開発
データタイプ | 推奨分割方法 | 具体例 |
---|---|---|
法的文書 | 見出しと小見出し別 | 条項ごとの分割 |
医学文献 | 文境界や重要概念別 | 症状・治療法ごと |
HTMLコンテンツ | タグ構造に基づく | section、articleタグ単位 |
便利ツール: ChunkVizのようなユーティリティを使って、異なるチャンク分割戦略やサイズ、オーバーラップを視覚的に比較できます。
「チャンク化」とか「ベクトルデータベース」とか、急に専門用語が出てきて難しそうです…。これって何をしてるんですか?
「チャンク化」は長い文書を「読みやすい大きさに分割する」作業です。本を章や節に分けるのと同じで、AIが情報を検索しやすくするために、文書を適切なサイズに切り分けます。「ベクトルデータベース」は、この分割された文書を「数値の羅列」に変換して保存する特殊な倉庫のようなものです。例えば「猫は可愛い」という文を[0.2, 0.8, 0.3…]のような数字で表現し、似た内容の文書は似た数字になります。こうすることで、「ペットについて教えて」という質問に対して、関連する文書を素早く見つけられるようになるんです。
問題の本質:
埋め込みモデルがデータを正確に理解・表現できていない場合、類似データポイントがベクトル空間で適切に配置されません。
💡 解決策:最適な埋め込みモデルを選択する
選択基準:
参考リソース:
Massive Text Embedding Benchmark(MTEB)リーダーボードで、各モデルの性能を比較できます。FastEmbedのような軽量ライブラリを活用すれば、人気の高い埋め込みモデルを簡単に利用できます。
セマンティック検索の評価指標:
指標 | 説明 | 用途 |
---|---|---|
Precision@k | 上位k件の検索結果における関連文書の割合 | ANN算法の評価に最適 |
Mean Reciprocal Rank (MRR) | 最初の関連文書の位置を考慮 | ランキング品質の測定 |
DCG・NDCG | 文書の関連性スコアに基づく | 総合的な検索品質評価 |
💡 解決策:最適な検索アルゴリズムを選択する
1. 密ベクトル検索の設定
以下の類似度メトリクスから選択:
2. 疎ベクトル&ハイブリッド検索の活用
3. シンプルフィルタリングの導入
密ベクトル検索に属性フィルタリングを組み合わせて、検索結果を絞り込みます。
4. 重要なハイパーパラメータの設定
5. リランキングの導入
クロスエンコーダーモデルを使用して、ベクトル検索の結果を再スコアリング。これにより検索品質とRAGシステム全体のパフォーマンスが大幅に向上します。
LLM選択が影響する要素:
1. 回答品質
2. システムパフォーマンス
推論速度がLLMによって異なり、レスポンス時間に直接影響します。
3. ドメイン知識
専門領域のRAGアプリケーションでは、該当ドメインで学習されたLLMが必要な場合があります。
💡 解決策:LLM品質のテストと批判的分析
参考リソース:
Open LLM Leaderboardで、IFEval、GPQA、MMLU-PROなどのベンチマークに基づくLLMランキングを確認できます。
LLM回答品質の測定方法:
評価項目 | 測定内容 | 活用場面 |
---|---|---|
忠実度 | 検索コンテキストに基づいた回答か | ハルシネーション検出 |
関連性 | 質問との関連度 | 回答の適切性評価 |
意味的類似度 | 正解との意味的な近さ | 全体品質測定 |
一貫性 | 複数回実行時の結果安定性 | システム信頼性確認 |
ヒント: 多くのLLM評価フレームワークは、ドメイン固有やカスタム評価に対応しています。LLM-as-a-JudgeやOpenAI Moderation APIを活用して、AIアプリケーションの応答を適切にモデレートしましょう。
作成方法の選択肢:
1. 手作業でのデータセット作成
2. LLMを使った合成データ生成
3. Ragasフレームワークの活用
LLMを使用してRAGシステム評価用の多様な質問タイプを自動生成します。
4. FiddleCube(現Compliant-LLM) テストプロセスの異なる側面を対象とした幅広い質問タイプを生成できるシステムです。現在はCompliant-LLMとしてリブランドされ、AIシステムのセキュリティとコンプライアンス評価にも対応しています。
データセット作成後、各質問に対してRAGパイプラインから以下を収集:
評価用データの構造例:
{
"question": "ソースドキュメントに基づく質問",
"ground_truth": "クエリに対する正確な回答",
"context": "RAGパイプラインが検索したコンテキスト",
"answer": "RAGパイプラインが生成した回答"
}
E2E評価では、RAGシステム全体のパフォーマンスを包括的に評価します。
1. 有用性:ユーザーが目標達成にどの程度役立つかを測定
2. 根拠性: 検索されたコンテキストから検証可能な情報に基づいた回答かどうか
3. レイテンシー:システムの応答時間が要求される速度・効率基準を満たしているか
4. 簡潔性:回答が簡潔でありながら包括的かどうか
5. 一貫性:異なるクエリやコンテキストにおいて、一貫して高品質な回答を提供できるか
回答意味的類似度:
回答正確性:
RAG評価は継続的なプロセスです。この記事で学んだ手法を実践し、定期的にシステムの品質をチェックすることで、ユーザーの期待に応える信頼性の高いAIアプリケーションを構築・維持できるでしょう。
🚀 次のアクション: まずは一つの評価フレームワークを選んで、あなたのRAGシステムの現状を測定してみてください。そこから見えてくる改善点を、一歩ずつ着実に解決していきましょう。応援しています!
生成AI、LLM、NLPを専門とするAI/ML開発者兼MLOpsエンジニア。
生成AI、大規模言語モデル(LLM)、自然言語処理(NLP)を専門とするAI/ML開発者兼MLOpsエンジニアで、5年以上の実務経験を有している。クラウドプラットフォームや最先端のフレームワークを活用し、実運用レベルのAIアプリケーションの構築とデプロイに精通している。AI技術の発展と、グローバルなコミュニティへの知識共有に情熱を注いでいる。
この記事は著者の許可を得て公開しています。
元記事:RAG Evaluation : A Comprehensive Guide
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&著書『ChatGPT最強の仕事術』は4万部突破。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。