
2025/08/28(木)
OpenAIが2025年9月、プロダクト実験プラットフォームのStatsigを11億ドルで買収すると発表しました。この買収は同社にとって5社目の企業買収となり、AI業界における戦略的な動きとして大きな注目を集めています。
今回の買収により、Statsig創業者兼CEOのVijaye Raji氏がOpenAIのアプリケーション担当CTOに就任し、ChatGPTやCodexなどの製品エンジニアリングを統括することになります。この人事異動と技術統合により、OpenAIはどのような未来を描いているのでしょうか。
目次
Statsigは2021年設立の急成長テクノロジー企業で、データドリブンなプロダクト開発プラットフォームを提供しています。同社のサービスには以下の主要機能が含まれています:
売上高は約60億円(前年比2倍)、従業員数は145名程度で、全世界で300社以上の企業に導入されています。
特に注目すべきは、Notion、Brex、Bloombergといった大手企業が顧客として名を連ねていることです。これらの企業は、Statsigのプラットフォームを活用してプロダクト開発の効率化と品質向上を実現しています。
OpenAIがStatsigを買収した最大の狙いは、科学的なプロダクト開発能力の獲得にあると考えられます。AIアプリケーション部門と連携することで、AIプロダクトの高速開発と継続的改善を実現しようとしています。
従来、AIプロダクトの改善サイクルは数週間から数ヶ月かかることが一般的でした。しかし、Statsigの実験プラットフォームを統合することで、この改善サイクルを数時間から数日に短縮できる可能性があります。これは、ChatGPTのような大規模ユーザーベースを持つサービスにとって、競争優位性を大きく向上させる要因となります。
今回の買収は、OpenAIのエンタープライズ向け事業戦略の一環としても位置づけられるようです。Statsigが提供するプロダクト開発支援ツールは、主にマーケターやプロダクトマネージャーが使用するものです。
これまでOpenAIは、開発者向けのWindsurf(開発プラットフォーム)を展開していましたが、失敗に終わりました。しかし、Statsigは異なるレイヤーのサービスを提供しており、エンジニアが使うツールとは補完関係にあります。
将来的には、OpenAIプラットフォームのエコシステムとして、各種ツールを統合したサービス提供が可能になるかもしれません。これにより、企業がサービスを立ち上げる際に、OpenAIの包括的なプラットフォームを活用できる環境が整備される可能性があります。
注目すべきは、買収後もStatsigがシアトルから独立運営を続けるという点です。これは単純な人材獲得(アクハイアリング)ではなく、事業自体をOpenAIのラインナップに組み込む意図があることを示しています。
独立運営を維持することで、既存顧客への影響を最小限に抑えながら、OpenAIの技術との段階的な統合を進めることができます。これは、ChatGPT Enterpriseのような企業向けサービスの拡充にもつながる可能性があります。
今回のStatsig買収により、OpenAIの企業買収は5社目となります。これまでの主要な買収実績は以下の通りです。
企業名 | 事業内容 | 戦略的意図(想定) |
io(Jonathan Ives設立) | デザインカンパニー | ハードウェア・デザイン強化 |
Rockset | リアルタイム検索・分析インフラ | データ処理能力向上 |
Multi | AIコラボレーションツール | チーム協働機能強化 |
Global Illumination | ゲーム開発 | エンターテインメント領域拡大 |
Statsig | プロダクト実験プラットフォーム | 科学的開発手法導入 |
これらの買収を通じて、OpenAIは単なるAI技術企業から、包括的なプラットフォーム企業への転換を図っていることが分かります。
今回の買収は、OpenAIが「AI駆動ロールアップ」戦略を採用している可能性を示唆しています。これは、AI技術を核として、関連する様々な領域の企業を買収・統合し、総合的なプラットフォームを構築する戦略です。
B2B向けサービスの買収を通じて、AIを導入した業務支援ツールの展開を加速させることで、エンタープライズ市場での競争優位性を確立しようとしていると考えられます。
OpenAIによるStatsig買収は、以下の重要な意味を持っています:
この買収により、OpenAIは単なるAI技術提供者から、企業のプロダクト開発全体を支援する総合プラットフォーム企業への進化を加速させています。今後のさらなる展開と、AI業界全体への影響が注目されます。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
OpenAIがStatsigを買収した主な目的は、科学的なプロダクト開発能力の獲得です。A/Bテストや機能フラグなどのStatsigのツールを活用することで、AIプロダクトの改善サイクルを短縮し、より迅速な開発と改善を目指しています。
Statsigは、データドリブンなプロダクト開発プラットフォームを提供するテクノロジー企業です。A/Bテスト、機能管理、製品分析、セッションリプレイなどの機能を提供し、企業がプロダクト開発の効率化と品質向上を実現するのを支援します。
Statsigの主要な機能には、A/Bテストと実験自動化、機能フラグ、製品分析、セッションリプレイがあります。A/Bテストで新機能の効果を測定し、機能フラグで段階的なリリースとリスク管理を行い、製品分析でユーザー行動を詳細に分析し、セッションリプレイでユーザー体験を可視化します。
Statsigの買収により、OpenAIはエンタープライズ向けのプロダクト開発支援ツールを提供できるようになります。これにより、企業はOpenAIのプラットフォームを活用して、より効率的にサービスを立ち上げ、改善することが可能になります。
はい、買収後もStatsigはシアトルから独立運営を続ける予定です。これにより、既存顧客への影響を最小限に抑えつつ、OpenAIの技術との段階的な統合を進めることができます。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。