
2025/08/06(水)
AIエージェントが私たちの代わりに商品を購入する時代が、いよいよ現実のものとなってきました。しかし、従来の決済システムは人間が直接操作することを前提として設計されており、AIエージェントが自動的に支払いを行う際には多くの課題が存在していました。
そんな中、Googleが2025年9月に発表したAgent Payments Protocol 2(AP2)は、この課題を解決する画期的なオープンソースプロトコルとして注目を集めています。本記事では、AP2の仕組みから実際の活用方法まで、AIエージェント決済の未来を詳しく解説していきます。
目次
AP2は、AIエージェントが安全かつ信頼性の高い決済を行うために開発されたオープンソースプロトコルです。従来の決済システムが人間による直接的な購入を想定していたのに対し、AP2はAIエージェントが自動的に支払いを開始することを前提として設計されています。
このプロトコルの最大の特徴は、Verifiable Credentials(検証可能クレデンシャル)という暗号学的に署名されたデータペイロードを使用することです。これにより、改ざん防止機能を持つ安全な取引環境を実現しています。
AP2は単独で機能するのではなく、Googleが既に展開しているAgent-to-Agent(A2A)プロトコルやModel Context Protocol(MCP)と連携することで、より包括的なAIエージェントエコシステムを構築します。
現在の決済システムには、AIエージェントが関与する際に生じる根本的な問題があります。
AIエージェントが特定の購入権限を持っていることを、どのように証明すればよいのでしょうか?従来のシステムでは、人間がクレジットカード情報を入力し、本人確認を行うことで権限を証明していました。しかし、AIエージェントの場合、この仕組みが適用できません。
商売業者(マーチャント)は、AIエージェントからの購入要求が正当なものであることを、どのように確認できるのでしょうか?人間であれば、追加の本人確認や電話での確認が可能ですが、AIエージェントの場合は異なるアプローチが必要です。
取引で損失が発生した場合、誰が責任を負うのでしょうか?ユーザー、商売業者、カード発行会社、それともAIモデル開発者なのか。この責任分界点の曖昧さが、AIエージェント決済の普及を阻む大きな要因となっています。
AIエージェントが決済情報にアクセスする際、ユーザーのプライバシーをどのように保護し、不正利用をどのように防ぐかという課題もあります。
AP2は、これらの課題を解決するために、以下の5つの基本原則に基づいて設計されています。
AP2は、A2AやMCPのオープンな拡張として位置づけられており、誰もがイノベーションできる競争環境を提供します。特定の企業やプラットフォームに依存しない、オープンスタンダードとして設計されています。
ユーザーは常に取引をコントロールできる立場にあります。ロールベースのアーキテクチャにより、センシティブなデータはユーザーの許可があり、必要な場所にのみ共有されます。
各取引には、関係する全ての当事者が含まれる決定的で暗号学的に署名されたインテント(意図)の証拠が含まれます。これにより、エージェントエラーのリスクに直接対応できます。
プロトコルは、各取引の暗号学的な監査証跡を作成することで、紛争解決に必要な証拠を提供します。何か問題が発生した際に、誰が何をしたかを明確に追跡できます。
V0.1版では、クレジットカードのような「プル」決済をサポートしていますが、将来的にはリアルタイム銀行振込やデジタル通貨のような「プッシュ」決済もサポート予定です。また、人間が不在の場合の委任権限もサポートしています。
AP2は、ロールベースのアーキテクチャを採用しており、それぞれの役割が特定の責任を持っています。ここでは、典型的なショッピングシナリオを例に説明します。
ショッピングエージェントは、ユーザーと直接対話するAIです。例えば、Geminiのようなシステムがこの役割を担います。このエージェントは、ユーザーのリクエストを理解し、商品を発見し、次のステップに進む役割を持っています。
マーチャントエージェントは、商売業者側のシステムです。商品情報の提供、在庫確認、価格設定、配送手配などを担当します。
従来のシンプルなAPI通信とは異なり、AP2ではVerifiable Credentials(VC)を使用してコミュニケーションを行います。これらは、改ざん防止機能を持つ暗号学的に署名されたデータペイロードです。
AP2では、取引の種類に応じて3つの基本的なクレデンシャルタイプを使用します。
人間が在席している状況で使用されるクレデンシャルです。ユーザーが直接購入を承認できる場合に、特定のカート内容(商品、価格、配送情報)に対する承認を暗号学的に署名します。
人間が不在の状況で使用される、より高度なクレデンシャルです。例えば、「午後に販売開始されるコンサートチケットを購入してほしい」といった、将来の購入に対する事前承認を含みます。価格上限や商品カテゴリーなどの制約条件も設定できます。
決済ネットワークや銀行との間で使用されるクレデンシャルです。AIエージェントが人間在席・不在両方の取引に参加していることを示し、適切な決済処理を可能にします。
AP2を使用した実際の取引がどのように進行するかを、人間在席シナリオを例に詳しく見てみましょう。
ステップ | 実行者 | アクション |
1 | ユーザー | ショッピングエージェントにカート構築を指示 |
2 | マーチャントエージェント | カート内容を暗号学的に署名(価格保証) |
3 | ショッピングエージェント | 署名されたカートとペイメントマンデートをユーザーに提示 |
4 | ユーザー | 取引内容を確認し、承認 |
5 | マーチャントエージェント | カートマンデートとペイメントマンデートを受け取り、取引実行 |
このフローの重要な点は、各ステップで暗号学的な署名が行われ、後から検証可能な証跡が残ることです。これにより、取引の透明性と信頼性が確保されます。
AP2の真価は、単純な買い物を超えた高度な活用例で発揮されます。例えば、以下のようなシナリオが可能になります。
ユーザーが「在庫切れの特定の色のジャケットが欲しい」というインテントマンデートを設定したとします。この場合、マーチャントエージェントがこのインテントを受け取り、商品が再入荷された際に自動的に特別注文を送ることができます。
「午後2時に販売開始されるコンサートチケットを、上限5万円で購入してほしい」といったインテントマンデートを設定することで、ユーザーが不在でも自動的にチケット購入が実行されます。
高額商品や重要な取引の場合、追加の認証手順やコンバーセーショナルな確認プロセスを組み込むことも可能です。
AP2は、単独のプロトコルとしてではなく、より大きなエコシステムの一部として機能します。既に60社以上の企業が参画しており、店舗側とユーザー側の両方が利用できるプロトコルとして発展しています。
私は、AP2のようなプロトコルが明確になることで、AIエージェントができることが多層的に拡大していくと考えています。決済だけでなく、在庫管理、顧客サービス、マーケティングなど、様々な領域でAIエージェントの活用が進むでしょう。
GoogleのAP2プロトコルは、AIエージェント時代の決済インフラとして革新的な解決策を提供しています。本記事で解説した主要なポイントを以下にまとめます:
AP2は、AIエージェントが私たちの日常生活により深く統合される未来への重要な一歩です。このプロトコルの普及により、より便利で安全なAI支援型のショッピング体験が実現されることが期待されます。
本記事の内容は、以下の資料も参考にしています:
AP2は、AIエージェントが安全かつ信頼性の高い決済を行うためにGoogleが開発したオープンソースプロトコルです。AIエージェントが自動で支払いを開始することを前提に設計されており、Verifiable Credentials(検証可能クレデンシャル)という暗号学的に署名されたデータペイロードを使用することで、改ざん防止機能を持つ安全な取引環境を実現します。
従来の決済システムは人間が直接操作することを前提としていますが、AP2はAIエージェントが自動的に支払いを行うことを想定して設計されています。AP2では、Verifiable Credentialsを使用してAIエージェントの権限を証明し、取引の確認と検証、責任の所在の明確化、セキュリティとプライバシーの確保を実現します。
AP2は、オープンシステムとインターオペラビリティ、ユーザーコントロールとプライバシーバイデザイン、検証可能なインテント、明確な取引アカウンタビリティ、グローバル・フューチャープルーフの5つの基本原則に基づいて設計されています。これにより、透明性が高く、安全で、グローバルに対応できるAIエージェント決済システムを構築します。
AP2では、取引の種類に応じて3つの基本的なクレデンシャルタイプを使用します。カートマンデートは人間が在席している状況で使用され、インテントマンデートは人間が不在の状況で使用されます。ペイメントマンデートは決済ネットワークや銀行との間で使用され、AIエージェントが取引に参加していることを示します。
AP2のV0.1版では、クレジットカードやデビットカードなどの「プル」決済方法をサポートしています。将来的には、リアルタイム銀行振込やデジタル通貨などの「プッシュ」決済方法も追加される予定です。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。