静止画のキャラクターを動かしたい。リアルな表情と自然な動きで。そして背景にも馴染むように──。
これまで、この願いを叶えるオープンソースのAIツールは、どこか「惜しい」ものばかりでした。顔の動きは硬い、体の動きがぎこちない、背景に貼り付けたような不自然さが残る…。
しかし、Tongyi Labが2025年9月にリリースしたWan2.2-Animate(通称:Wan-Animate)は、これらすべての課題を一つのモデルで解決する、画期的なツールです。しかも完全無料で利用可能。
✨ この記事はこんな方におすすめです:
目次

Wan2.2-Animateは、静止画のキャラクター画像と参考となる動画を組み合わせることで、リアルな動きと表情を持つアニメーションを自動生成するAIモデルです。
従来のツールが「顔だけ」「体だけ」といった部分的な処理に留まっていたのに対し、Wan2.2-Animateは以下をすべて統合的に処理します:
✅ 体全体の自然な動き
✅ リアルな顔の表情変化
✅ 背景や環境への自然な馴染み
つまり、スケッチ、イラスト、写真など、どんなキャラクター画像でも、参考動画の動きを使って「命を吹き込む」ことができるのです。

Wan2.2-Animateには、用途に応じて使い分けられる2つのモードがあります。
静止画のキャラクターを動かしつつ、元の背景をそのまま維持するモードです。
💡 使い方のイメージ:
このモードは、イラストや写真に命を吹き込みたい場合に最適です。
既存の動画内の人物を、あなたのキャラクターに置き換えるモードです。
💡 使い方のイメージ:
⚠️ 重要なポイント:
単純な「切り貼り」ではなく、動画の照明環境や色調に合わせて自動調整されるため、「Photoshopで貼り付けた感」が一切ありません。

これまでのオープンソースツールと比較して、Wan2.2-Animateが優れている点を具体的に見ていきましょう。
従来は「体用のモデル」「顔用のモデル」「置き換え用のモデル」と、複数のツールを使い分ける必要がありました。
しかし、Wan2.2-Animateは共通のシンボル表現を使用することで、一つのモデルで複数のタスクを処理できます。これにより、作業の効率が大幅に向上しました。
「共通のシンボル表現」って言葉が難しくて…。これって要するにどういうことですか?
簡単に言うと「体の動き」「顔の表情」「背景」という別々の情報を、AIが理解できる共通の言語に変換する仕組みです。例えるなら、日本語・英語・中国語を全て英語に翻訳してから処理するようなイメージですね。これにより、従来は3つのツールを使い分けていた作業が、Wan2.2-Animateなら1つのツールで完結するようになりました。実際の制作現場では、これだけで作業時間が大幅に短縮されます。
参考動画から2Dスケルトン(骨格情報)を抽出し、拡散プロセス(Diffusion Process)のノイズレイテント(潜在変数)に注入します。これにより、自然で滑らかな体の動きが実現します。
ここが従来のツールとの大きな違いです。多くのツールは「ランドマーク(顔の特徴点)」を使っていましたが、これでは細かな表情の変化が失われてしまいます。
Wan2.2-Animateは、顔の領域を直接潜在特徴量(Latent Features)にエンコードし、Transformerレイヤーのクロスアテンション(Cross-Attention)を通じて注入します。
「ランドマーク」と「潜在特徴量」って、そんなに違うんですか?どちらも顔の情報を使うんですよね?
大きく違います。ランドマークは「目の位置」「口の位置」といった顔の特徴点だけを使う方法で、微妙な表情変化を捉えきれません。一方、Wan2.2-Animateが使う潜在特徴量は、顔全体の情報を圧縮した「データの塊」のようなもので、微妙な笑顔のニュアンスや感情の変化まで再現できます。料理に例えると、ランドマークは「レシピの材料リスト」だけ、潜在特徴量は「完成した料理の味や香りまで含めた情報」という違いがあります。だからこそ、Wan2.2-Animateでは本当に感情を持っているかのような自然な表情が生まれるんです。
✨ 効果:微妙な表情変化も忠実に再現され、まるで本当に感情を持っているかのような自然な表情が生まれます。
置き換えモードを使用する際、キャラクターが動画の照明環境に馴染まないという問題が起こりがちです。
Wan2.2-Animateは、軽量なリライティングLoRAモジュールを搭載しており、シーンの照明やカラートーンに合わせてキャラクターを自動調整します。
「リライティングLoRA」って何ですか?照明を後から調整するのって、Photoshopでもできそうですが…?
リライティングLoRAは、動画のシーン全体の照明環境を分析して、キャラクターの明るさや色味を自動的に調整する仕組みです。Photoshopでの手作業とは違い、動画の各フレームごとに照明が変化しても自動で追従してくれます。例えば、暗い室内から明るい屋外に移動するシーンでも、キャラクターの明るさが自然に変化します。私がテストした際も、夕暮れのシーンにキャラクターを配置したら、オレンジ色の光が自然に反射して、最初からそこにいたような仕上がりになりました。手作業だと数時間かかる作業が、一瞬で完了するイメージです。
📌 比較:
多くのツールは短いクリップしか生成できませんが、Wan2.2-Animateは異なります。
最後の数フレームを時間的ガイダンスとして再利用することで、複数のセグメントをスムーズに連結し、長尺の動画でも継続性を保つことができます。
🎬 これにより、数秒の短いクリップだけでなく、数分規模のアニメーション制作も可能になります。

ここでは、少し技術的な話になりますが、Wan2.2-Animateがどのように機能しているのかを簡単に説明します。
Wan2.2-Animateは、Wan-I2Vという拡散トランスフォーマー(DiT: Diffusion Transformer)ベースの画像-動画変換モデル上に構築されています。
基本的な処理の流れ:
ここに、2つの専用アダプターが追加されています。
Body Adapter(体用アダプター)
Face Adapter(顔用アダプター)
Relighting LoRA(リライティングLoRA)
Wan2.2-Animateの学習は、以下の順序で段階的に行われます:
このステップバイステップのアプローチにより、すべてを一度に学習させるよりも安定した収束が実現されています。

Wan2.2-Animateは、以下の評価指標でオープンソースの競合ツール(Animate Anyone、Unianimate、VACEなど)を上回る結果を出しています:
📊 主な評価指標:
さらに、Bytedanceの商用モデル「DreamActor-M1」やRunwayの「Act-Two」といったクローズドソースの商用ツールに匹敵する性能を発揮し、人間による評価では優位性が確認されています。
数値だけでなく、実際の人間による評価でも以下の点で高い評価を得ています:
✅ 動きの正確性が高い
✅ キャラクターの一貫性が保たれる
✅ 表情がより自然

これまでのオープンソースツールは、常に「妥協」を伴うものでした。
しかし、Wan2.2-Animateは初めて「完全」と呼べるオープンソースリリースです。
体 + 顔 + 環境の3要素すべてを統合的に処理し、商用システムに匹敵するクオリティを実現しています。
💡 そして最も重要なのは、モデルの重みとコードがオープンソース化されているということです。
これにより、開発者は商用APIのアクセス許可を待つことなく、このツールを基盤として独自の開発を進めることができます。

Wan2.2-Animateの基本的な使用手順は非常にシンプルです。
ステップ1:素材を準備する
ステップ2:モードを選択する
ステップ3:AIに任せる
モデルが自動的に以下を処理します:
ステップ4:完成!
一貫性のある高品質な動画が出力されます。


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開発者・研究者

Wan2.2-Animateは、単なる類似ツールの一つではありません。
これは、キャラクター駆動型動画生成のための真に統合されたシステムです。
🎯 このツールの本質:
Wan2.2-Animateのコードとモデルは2025年9月19日にオープンソース化されました。GitHub、HuggingFace、ModelScopeで利用可能です。
🚀 今すぐできること:
この技術は、CGI制作の民主化における大きな一歩です。ぜひあなたのプロジェクトにも活用してみてください。きっと、想像以上のクオリティに驚くはずです!
DBS銀行のデータサイエンティスト。生成AIの実務活用や教育に精通し、情報発信も積極的に行う。
Mehul Gupta(メフル・グプタ)は、DBS銀行のデータサイエンティストであり、 著書『LangChain in Your Pocket』の著者としても知られています。 AIや機械学習の知見を発信するプラットフォーム「Data Science In Your Pocket」を主宰し、 Mediumでは350本以上の技術記事を執筆するトップライターとして活躍中です。 過去にはTata 1mgにて医療データのデジタル化にも取り組みました。 趣味はギター演奏とAI教育への貢献です。
この記事は著者の許可を得て公開しています。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&著書『ChatGPT最強の仕事術』は4万部突破。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。