
2025/07/30(水)
データはあるけれど、システム部門や一部のデータ分析担当者しか使えない——多くの企業が抱えるこの課題を、セブンイレブンは生成AIを活用することで解決しました。真のデータ民主化を実現し、誰もが自然言語でデータを活用できる環境を構築した同社の取り組みは、小売業界のデジタル変革における先進事例として注目を集めています。
本記事では、セブンイレブンが生成AIを通じて実現したデータ民主化の具体的な手法と、5つの革新的な活用方法について詳しく解説します。データを「武器」に変えるための実践的なアプローチを、具体例とともにご紹介していきます。
目次
セブンイレブンは以前からデータドリブン経営を掲げ、充実したデータ基盤を構築していました。しかし、実際にそのデータを活用できるのは、システム部門や一部のデータ分析専門スタッフに限られていたのが現状でした。
例えるなら、広い畑に最高の農機具をそろえていたのに、それを使えるのが農業研究員だけだったようなものです。せっかくの肥沃な土地(=データ)も、みんなで活用できなければ実りは限られます。
この状況は、多くの企業が抱える典型的な課題です。データはあるものの、SQLの知識や専門的な分析スキルがなければアクセスできない「データの格差」が存在していました。真のデータ民主化——つまり、組織の誰もが必要な時に必要なデータにアクセスし、業務に活用できる状態——には至っていなかったのです。
この課題を解決するため、セブンイレブンは生成AIを戦略的に導入し、データ活用の民主化を推進することを決定しました。
セブンイレブンの生成AI活用で特筆すべきは、ハルシネーション(AIが事実と異なる情報を生成する現象)を恐れずに使いこなすという明確な方針を打ち出していることです。
多くの企業がハルシネーションを理由に生成AI導入に慎重になる中、セブンイレブンは「完璧を求めるよりも、まず使いこなすことから始める」というアプローチを採用しています。この方針により、従業員が生成AIを積極的に活用し、実践を通じてスキルを向上させる文化が醸成されています。
例えるなら、「水泳を完璧に理解してから泳ぐ」のではなく、「まずは浅瀬で体を動かして慣れる」アプローチです。セブンイレブンは、失敗を恐れず水に入る文化をつくったのです。
また、同社ではプロンプトの蓄積を重要視しており、効果的なプロンプトを組織全体で共有・活用する仕組みを構築しています。これにより、個人の試行錯誤の成果が組織全体の資産となり、継続的な改善が可能になっています。
セブンイレブンは、単一のAIツールに依存するのではなく、複数のAIを目的に応じて使い分けられる柔軟な設計を採用しています。この基盤は「7-Eleven AIライブラリー」と呼ばれ、Geminiを中核としながらも、様々なAIツールを統合的に活用できる環境を提供しています。
この柔軟なアプローチにより、以下のような利点が生まれています:
セブンイレブンが実現したデータ民主化の具体的な成果として、以下の5つの活用方法が挙げられます。それぞれが業務プロセスの劇的な効率化とコンビニ事業の売り上げ構造に直結する戦略的な活用という2つの軸で展開されています。
最も革新的な取り組みの一つが、自然言語でのデータ検索機能です。従来であれば、「王子町駅前店の常温のお弁当の定番商品ランキング」といった情報を取得するには、SQLを書いてデータベースにアクセスする必要がありました。
しかし、生成AIの導入により、店舗スタッフや本部の担当者が「王子町駅前店の常温のお弁当の定番商品ランキングを教えて」と自然言語で質問するだけで、必要な情報を即座に取得できるようになりました。
新商品開発プロセスにおいて、セブンイレブンはマルチモーダルAIを活用した革新的なアプローチを導入しています。
具体的には、商品コンセプトをマルチモーダルAIに入力することで、商品のビジュアルイメージを早期に生成し、開発チーム内での議論を活性化させています。従来は言葉だけで説明していた商品アイデアを、視覚的に共有できるようになったことで、関係者間の認識齟齬を大幅に削減できました。
さらに、以下のような付加価値も実現しています:
セブンイレブンは、SNSの動向をリアルタイムに分析することで、潜在的なリスクを早期に発見し、迅速な対応を可能にしています。
この取り組みにより、以下のような効果が得られています:
グローバル展開を進めるセブンイレブンにとって、IR資料の多言語対応は重要な課題でした。生成AIの活用により、この課題を効率的に解決しています。
単純な翻訳にとどまらず、各国の文化や商習慣に配慮した内容調整も自動化されており、グローバルなステークホルダーとのコミュニケーション品質が大幅に向上しています。
従来は商品企画後に試作品をつくり、撮影するまで商品イメージを共有できませんでした。生成AIを活用することで、商品コンセプトからビジュアルイメージを瞬時に作成し、イメージを共有できます。
これにより、議論の質が劇的に向上し、商品開発のスピードアップにつながっているようです。
セブンイレブンの生成AI活用が成功している最も重要な要因は、事前に整備された堅牢なデータ基盤にあると言えるでしょう。
特に自然言語によるデータ検索機能については、「データがそもそもあるからできる」という前提条件が不可欠です。同社では、以下のような準備を事前に行っていました:
これらの基盤があったからこそ、生成AIを「データを理解し、適切に活用するツール」として機能させることができたのです。
セブンイレブンの生成AI活用によるデータ民主化の取り組みは、小売業界におけるデジタル変革の先進事例として多くの示唆を提供しています。
主要なポイントを整理すると以下の通りです:
この事例から学べる最も重要な教訓は、生成AIの導入成功には技術的な準備だけでなく、組織全体でのマインドセット変革と、継続的な学習・改善の仕組み構築が不可欠だということです。セブンイレブンの取り組みは、真のデータ民主化を実現するための実践的なロードマップとして、多くの企業にとって参考になるでしょう。
セブンイレブンは生成AIを活用し、誰もが自然言語でデータを活用できる環境を構築することでデータ民主化を実現しました。これにより、システム部門やデータ分析担当者だけでなく、店舗スタッフも必要なデータにアクセスし、業務に活用できるようになりました。
セブンイレブンは「完璧を求めるよりも、まず使いこなすことから始める」という方針を採用しているため、ハルシネーションを恐れずに生成AIを活用しています。実践を通じて従業員のスキル向上を促し、プロンプトの蓄積と共有によって組織全体の改善を図っています。
7-Eleven AIライブラリーは、セブンイレブンが構築した柔軟なAI活用基盤です。Geminiを中核としつつ、データ分析、画像生成、翻訳など、用途に応じて最適なAIツールを使い分けられるように設計されています。これにより、リスク分散や継続的な改善が可能になります。
セブンイレブンでは、生成AIを自然言語によるデータ検索、SNSを活用した商品開発分析、リアルタイムリスク分析、IR資料の多言語翻訳と分析、自然な対話によるデータ活用といった5つの方法で活用しています。これらの活用により、業務プロセスの効率化や売り上げ構造の戦略的な活用を実現しています。
セブンイレブンのデータ民主化成功の鍵は、事前に整備された堅牢なデータ基盤にあります。分析に適したデータマートの構築、データ品質の確保、適切なアクセス権限の整備、メタデータの充実といった準備が、生成AIを効果的に活用するための基盤となっています。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。