AI音声技術の世界で、また一つの革命的なサービスが誕生しました。ElevenLabsが新たに発表した「Iconic Voices」は、マイケル・ケインやジュディ・ガーランドといった著名人の声をAIで再現し、正式なライセンスのもとで商用利用を可能にするサービスです。
これまでAI音声クローニングは技術的には可能でしたが、著作権や肖像権の問題で「グレーゾーン」とされてきました。しかし、ElevenLabsのIconic Voicesは、権利者との正式な契約に基づいて有名人の声を提供することで、この問題を解決しています。
この記事では、ElevenLabsの新サービスがどのような仕組みで動作し、どんな可能性を秘めているのか、そして私たちの音声コンテンツ体験がどう変わっていくのかを詳しく解説します。
目次


ElevenLabsのIconic Voicesは、世界で最も象徴的な声の数々と正式に提携し、AI技術によってそれらの声を再現・提供するサービスです。現在、マイケル・ケイン、ジュディ・ガーランド、ジョン・ウェイン、ジェームズ・ディーンなどの著名人の声が利用可能となっています。
このサービスの最大の特徴は、「同意に基づく、パフォーマー第一のアプローチ」を採用していることです。従来の無許可での音声クローニングとは異なり、権利者との正式な契約に基づいて声を提供しているため、法的な問題を回避しながら高品質なAI音声を利用できます。
91歳のマイケル・ケイン氏は声明で「これは声を置き換えることではなく、声を増幅し、あらゆる場所の新しいストーリーテラーに扉を開くことです」と述べており、技術の可能性に対する前向きな姿勢を示しています。

ElevenLabsのIconic Voicesは、2つの主要な技術アプローチを組み合わせて実現されています。
生存している著名人の場合、ElevenLabsの高度な音声クローニング技術を使用します。この技術はゼロショット学習と呼ばれる手法を採用しており、短い音声サンプルからでもその人の声の特徴を瞬時に把握し、新しいテキストを自然な音声として生成できます。
従来の音声合成では大量のデータが必要でしたが、ElevenLabsの技術では比較的少ないサンプルでも高品質な音声クローンを作成できるため、効率的な実装が可能です。
歴史上の人物や故人の場合は、既存のアーカイブ音声から音声特徴を分析し、AI技術によって合成的に再構築します。アラン・チューリングやトーマス・エジソンといった歴史的人物の声も、この手法によって蘇らせています。
重要なのは、これらすべてのプロセスが権利者の明確な許可のもとで行われていることです。ElevenLabsは正当な所有権を証明できる権利者とのみ契約を結んでいます。

私自身、ElevenLabsのReaderアプリを使って、実際にマイケル・ケインの声でテキストを読み上げてもらいました。その体験は驚くべきものでした。
アプリでは「Let’s pick a voice to start off with」という画面から、利用可能な著名人の声を選択できます。マイケル・ケインを選択すると、彼の特徴的な英国アクセントと落ち着いた話し方が見事に再現されていました。
特に印象的だったのは、英語のテキストを読み上げる際の自然さです。「I would rather have questions that can’t be answered than answers that can’t be questioned」といった哲学的な文章も、まさにマイケル・ケイン本人が語っているかのような説得力がありました。
興味深いことに、日本語の記事を英語圏の著名人の声で読み上げることも可能です。私が試したところ、日本語のテキストでも選択した著名人の声の特徴が保たれており、国際的なコンテンツ制作における新たな可能性を感じました。
ただし、現在のところ日本の著名人の声は提供されていないため、日本市場での本格的な展開には、日本の人気タレントや声優との提携が重要になると考えられます。

Iconic Voicesの登場は、エンターテインメント業界に大きな変革をもたらす可能性があります。特に以下の分野での活用が期待されています。
ゲーム開発において、著名人の声を使ったキャラクターボイスの実装が現実的になりました。従来は高額な契約と録音スケジュールの調整が必要でしたが、AI音声により24時間365日いつでも新しいセリフを生成できるようになります。
これにより、プレイヤーの行動に応じて動的に変化する対話システムや、アップデートのたびに新しいセリフを追加することが容易になります。
出版業界では、著名人の声によるオーディオブック制作のコストと時間が大幅に削減されます。一度ライセンス契約を結べば、その著名人のスケジュールに関係なく、いつでも新しい作品のナレーションを制作できます。
特に多言語展開において、同じ著名人の声で複数の言語版を制作することも技術的に可能になるでしょう。
ブランドは信頼できる著名人の声を使って、数千のパーソナライズされた広告バリエーションを制作できるようになります。従来の「万人向け」の広告から、個人の名前や地域の店舗名を含む、よりターゲット化された広告体験が実現可能です。

現在のIconic Voicesにはいくつかの技術的な制約があります。私の体験では、英語での音声生成は非常に高品質でしたが、日本語などの非英語圏言語での自然さにはまだ改善の余地があると感じました。
英語圏の著名人の声を使って英語以外の言語を読み上げる場合、アクセントや発音の自然さに課題があります。これは今後の技術改良により解決されていくと予想されますが、現時点では主に英語コンテンツでの利用が最も効果的です。
現在のAI音声は基本的な感情表現は可能ですが、微妙なニュアンスや文脈に応じた感情の変化については、まだ人間の声優には及ばない部分があります。しかし、ElevenLabsの技術は急速に進歩しており、この差は縮まっていくでしょう。

私が特に注目しているのは、音声技術と映像技術の融合です。現在、SoraのようにAI技術により著名人の外見を再現する技術も発達しており、これらを組み合わせること「その人がプレゼンしているような映像と音声」を作り出すことが可能になります。
例えば、教育コンテンツにおいて歴史上の偉人が直接語りかけるような体験や、ブランドのプレゼンテーションを著名人が行っているような映像コンテンツの制作が現実的になります。
背景には自動生成された資料やスライドがあり、それを見ながら著名人のAI音声とAI映像が説明を行う——そんな未来は、技術的にはもはや手の届くところにあります。

AI音声市場は急速な成長を続けており、複数の調査機関が以下のような予測を発表しています:
| 調査機関 | 2024年市場規模 | 2030年予測 | 年平均成長率 |
| Grand View Research | 35.6億ドル | 217.5億ドル | 29-30% |
| MarketsandMarkets | 30億ドル | 204億ドル | 37.1% |
| Market.us | 24億ドル | 475億ドル | 34.8% |
ElevenLabs自体も2025年1月に33億ドルの企業価値で1億8000万ドルの資金調達を完了しており、投資家からの期待の高さがうかがえます。

ElevenLabsがIconic Voicesで他社と差別化している要因は以下の通りです:
これらの要因により、ElevenLabsは単なる技術提供者ではなく、信頼できるAI音声プラットフォームとしての地位を確立しています。

ElevenLabsのIconic Voicesは、AI音声技術の新たな可能性を示すサービスです。主要なポイントを以下にまとめます:
現在はまだ英語圏の数名の著名人に限定されていますが、今後人気タレントや声優などとの提携が進めば、音声インターフェースの価値は飛躍的に向上するでしょう。私たちが慣れ親しんだ声で、より親しみやすく、より楽しい情報体験ができる未来が、すぐそこまで来ています。
AI技術の進歩により、コンテンツ制作の民主化が進み、個人クリエイターから大企業まで、誰もが高品質な音声コンテンツを制作できる時代が到来しています。ElevenLabsのIconic Voicesは、その先駆けとなるサービスとして、今後の音声コンテンツ業界の発展を牽引していくことでしょう。
本記事の作成にあたり、以下の情報源を参考にしています:
ElevenLabsのIconic Voicesは、マイケル・ケインやジュディ・ガーランドといった著名人の声をAIで再現し、正式なライセンスのもとで商用利用を可能にするサービスです。権利者との正式な契約に基づいて声を提供することで、著作権や肖像権の問題をクリアにしています。
現在、マイケル・ケイン、ジュディ・ガーランド、ジョン・ウェイン、ジェームズ・ディーンなど、28名の著名人の声が利用可能です。今後もラインナップは拡充される予定です。
生存している著名人の場合は、短い音声サンプルから声の特徴を学習する音声クローニング技術を使用しています。故人の場合は、既存のアーカイブ音声から音声特徴を分析し、AI技術によって合成的に再構築します。
はい、Iconic Voicesは正式なライセンスに基づいて提供されているため、ゲーム、オーディオブック、広告など、様々な商用目的で利用できます。権利者との契約により、法的な問題を回避できます。
英語圏の著名人の声を使って日本語を読み上げることは可能ですが、英語ほど自然ではありません。日本市場での本格的な展開には、日本の著名人との提携が重要になると考えられます。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。