
2025/09/16(火)
Salesforceが2025年10月のDreamforceで発表したAgentforce 360は、従来のAIエージェントの限界を打ち破る革新的なプラットフォームです。
特に注目すべきは、ルールベースの処理と大規模言語モデル(LLM)を巧妙に組み合わせたAgent Script機能、そして複雑な非構造化データを正確に理解するIntelligent Contextの導入です。
これまでのAIエージェントは「すべてをLLMに任せる」か「厳格なルールに縛られる」かの二択でしたが、Agentforce 360はその中間地点を見つけ出しました。企業の実際の業務では、確実性が求められる部分と柔軟性が必要な部分が混在しているからです。
本記事では、Agentforce 360の4つの核心機能を詳しく解説し、なぜこのアプローチが企業のAI活用において画期的なのかを明らかにします。既に12,000社が導入し、サポートケースの解決率46%向上、処理時間84%短縮といった具体的な成果を上げているこの技術の全貌をご紹介します。
目次
Agentforce 360は、Salesforceが提唱する「エージェンティック・エンタープライズ」を実現するための統合プラットフォームです。従来のAgentforceから大幅に進化し、エージェント、データ、アプリケーションを一つの信頼できる基盤で結合することを可能にしました。
この新しいアプローチの最大の特徴は、AIエージェントの動作を細かく制御できる点にあります。これまでのAIエージェントは「ブラックボックス」的な側面が強く、なぜその判断をしたのか、どのような処理を行ったのかが不透明でした。しかし、Agentforce 360では、ビジネスルールに基づく確実な処理と、自然言語による柔軟な対応を適切に使い分けることができます。
具体的には、以下の4つの革新的機能が統合されています:
Agent Scriptは、Agentforce 360の最も革新的な機能の一つです。この機能により、「if/then」ロジックなどによる確実な処理と、LLMによる柔軟な自然言語処理を同一のエージェント内で組み合わせることが可能になりました。
従来のAIエージェントでは、すべての判断をLLMに委ねるため、時として予期しない回答や不正確な処理が発生するリスクがありました。一方で、完全にルールベースのシステムでは、想定外の状況に対応できないという課題がありました。Agent Scriptは、この両方の問題を解決します。
具体的な動作メカニズムは以下の通りです:
処理段階 | 使用技術 | 適用場面 |
初期判断 | ルールベース | 定型的な業務フロー、コンプライアンス確認 |
柔軟な対応 | LLM | 顧客の個別要望、複雑な問い合わせ |
最終確認 | ルールベース | 承認プロセス、データ整合性チェック |
この仕組みにより、企業は「確実性が求められる業務」と「柔軟性が必要な顧客対応」を同一のエージェントで処理できるようになります。例えば、顧客からの問い合わせに対して、まずルールベースで基本的な分類を行い、複雑な内容についてはLLMが自然言語で対応し、最終的な処理はルールベースで確実に実行するといった流れが実現できます。
Agent Scriptの設定は、自然言語からコードへの変換機能も備えており、技術的な専門知識がなくても比較的容易に設定できるよう設計されています。ただし、複雑なビジネスロジックを実装する場合は、一定の経験と知識が必要になると考えられます。
Intelligent Contextは、従来のRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術の限界を突破する画期的な機能です。この技術により、PDFの表やグラフ、画像などの視覚的情報を含む複雑な非構造化データを正確に理解し、適切なコンテキストを保持したまま処理することが可能になりました。
従来のRAGシステムでは、PDFなどの文書をテキスト化する際に、表の構造や図表の関係性が失われてしまうという根本的な問題がありました。Intelligent Contextは、この問題を以下の革新的なアプローチで解決します:
従来の単純なテキスト抽出ではなく、LLMを使用してデータの文脈を理解します。これにより、表の行と列の関係性、グラフの軸と数値の対応、図表のキャプションと内容の関連性を正確に把握できます。
画像、チャート、図表などの視覚的要素も、LLMベースの画像処理により適切に解釈されます。これにより、文字だけでは表現できない情報も正確に抽出・活用できます。
Intelligent Contextでは、文書の種類や業界特性に応じて、解析、処理、チャンク化、埋め込みの最適な戦略を自動的に決定します。また、手動での細かな調整も可能で、企業固有のデータ形式にも対応できます。
実際の処理では、サンプル文書をアップロードして最適なインデックス戦略をテストし、その後数千の類似文書に適用することができます。これにより、大量の企業データを効率的かつ正確に処理できるようになります。
Agentforce 360には、様々な業務領域に特化したアプリケーションが事前に構築されています。特にCustomer 360は、顧客との全接点を統合管理する包括的なソリューションとして位置づけられています。
Customer 360アプリケーションには、以下のような専門領域向けエージェントが含まれています:
これらのアプリケーションは、単独で使用することも、相互に連携させることも可能です。例えば、マーケティングエージェントが獲得したリードを営業エージェントが引き継ぎ、成約後はサービスエージェントが継続的な顧客サポートを提供するといった、シームレスな顧客体験を実現できます。
また、これらのアプリケーションは業界特有の要件にも対応しており、製造業、金融業、小売業、ヘルスケアなど、各業界の特殊な業務プロセスや規制要件を考慮した設計になっています。
Agentforce 360の革新的な側面の一つが、Slackとの深い統合により、企業向けエージェント型OS(オペレーティングシステム)として機能する点です。この統合により、従業員は普段使用しているSlackインターフェースから直接AIエージェントに依頼や問い合わせを行うことができます。
Slack統合の主な利点は以下の通りです:
従業員は新しいツールを覚える必要がなく、既に慣れ親しんだSlackの環境でAIエージェントを活用できます。これにより、導入時の学習コストを大幅に削減し、迅速な組織全体への浸透が期待できます。
AIエージェントの処理結果をSlackチャンネルで共有し、チームメンバーと即座に議論・改善することができます。これにより、AIと人間の協働がより効果的になります。
Slack上での会話履歴がそのままAIエージェントのコンテキストとして活用されるため、過去の議論や決定事項を踏まえた、より精度の高い支援を受けることができます。
この統合により、Agentforce 360は単なるAIツールではなく、企業の日常業務に深く根ざした「エージェント型OS」として機能し、組織全体の生産性向上に貢献します。
Agentforce 360には、Agentforce Voiceという音声対応機能も含まれています。この機能により、AIエージェントが電話での顧客対応を自然な音声で行い、必要に応じて人間のオペレーターにシームレスに引き継ぐことができます。
Agentforce Voiceの特徴は、単なる音声認識・合成技術ではなく、企業のブランドや業務内容を理解した上で、パーソナライズされた音声対応を提供する点にあります。顧客の過去の履歴や現在の状況を踏まえ、適切なトーンと内容で対応することで、人間のオペレーターと遜色ない顧客体験を実現します。
また、音声での対話内容は自動的にSalesforceのデータベースに記録され、後続の対応や分析に活用されます。これにより、音声チャネルでの顧客接点も、他のデジタルチャネルと同様に統合的に管理できるようになります。
Agentforce 360のローンチ時点で、既に12,000社がAgentforceシリーズを利用しており、革新的な成果を上げているとのことです。具体的な導入事例と成果は以下の通りです:
Redditでは、Agentforceの導入によりサポートケースの46%を自動解決し、解決時間を84%短縮することに成功しました。これにより、カスタマーサポートチームはより複雑で価値の高い業務に集中できるようになりました。
人材サービス大手のAdecoでは、勤務時間外の問い合わせの51%をエージェントが処理することで、24時間365日の顧客サービスを実現しました。これにより、顧客満足度の向上と運営コストの削減を同時に達成しています。
レストラン予約プラットフォームのOpenTableでは、レストランからの問い合わせの70%を自動的に解決することで、レストランオーナーの利便性を大幅に向上させました。
ある企業では処理時間を15%短縮し、年間200万ドルのコスト削減を実現するなど、定量的な効果も確認されています。
これらの成果は、Agentforce 360が単なる技術的な革新ではなく、実際のビジネス価値を創出する実用的なソリューションであることを示しています。
Agentforce 360は革新的な技術ですが、実装には一定の課題も存在します。特にAgent Scriptの設定は、複雑なビジネスロジックを実装する場合、相当な経験と専門知識が必要になると考えられます。
しかし、自然言語からコードへの変換機能により、技術的なハードルは従来よりも大幅に下がっています。また、豊富な事前構築済みアプリケーションにより、多くの企業は最小限のカスタマイズで導入を開始できます。
今後の展望として、Salesforceはパートナーエコシステムの拡大を通じて、より多様な業界・業務領域への対応を強化していく方針です。また、マルチエージェント連携機能の強化により、より複雑で高度な業務プロセスの自動化も可能になると期待されます。
Agentforce 360は、AIエージェント技術の新たな地平を切り開く革新的なプラットフォームです。以下の点で、従来のAIソリューションを大きく上回る価値を提供します:
企業がAI活用を検討する際、「すべてをAIに任せる」か「人間が完全に制御する」かの二択ではなく、両者の最適な組み合わせを実現するAgentforce 360のアプローチは、今後のエンタープライズAIの標準となる可能性が高いと考えられます。
特に、確実性と柔軟性の両立、複雑なデータの正確な処理、既存ワークフローへの自然な統合という3つの要素は、多くの企業が直面している課題を解決する鍵となるでしょう。
Salesforceが提供する、AIエージェント、データ、アプリケーションを統合したプラットフォームです。特に、ルールベース処理と大規模言語モデル(LLM)を組み合わせることで、確実性と柔軟性を両立したAI活用を可能にします。サポートケースの解決率向上や処理時間短縮といった実績があります。
Agent Scriptは、ルールベースの「if/then」ロジックとLLMによる自然言語処理を組み合わせた機能です。定型業務やコンプライアンス確認はルールベースで確実に行い、顧客の個別要望や複雑な問い合わせにはLLMで柔軟に対応します。これにより、企業は業務内容に応じて最適な処理方法を選択できます。
Intelligent Contextは、PDFの表やグラフ、画像などの非構造化データを正確に理解し処理できる機能です。従来のRAG技術では難しかった、データの文脈をLLMで解析し、視覚的なコンテキストも保持することで、より正確な情報抽出と回答を可能にします。
Agentforce 360は、顧客との接点を最適化し、業務効率を向上させたい企業に適しています。特に、営業、マーケティング、カスタマーサービス、フィールドサービスなど、顧客対応に関わる業務が多い企業で効果を発揮します。また、Salesforce製品を利用している企業は、よりスムーズな連携が可能です。
Agentforce 360の導入により、サポートケースの自動解決率向上、解決時間の短縮、24時間365日の顧客サービス提供などが期待できます。Redditではサポートケースの46%を自動解決し、解決時間を84%短縮、Adecoでは勤務時間外の問い合わせの51%をエージェントが処理といった導入事例があります。
Workstyle Evolution代表。18万人超YouTuber&『ChatGPT最強の仕事術』著者。
株式会社Workstyle Evolution代表取締役。YouTubeチャンネル「いけともch(チャンネル)」では、 AIエージェント時代の必須ノウハウ・スキルや、最新AIツールの活用法を独自のビジネス視点から解説し、 チャンネル登録数は18万人超(2025年7月時点)。