『AI 2040』から考える働き方の未来——AI時代に価値観を取り戻す3ステップ - 生成AIビジネス活用研究所

『AI 2040』から考える働き方の未来——AI時代に価値観を取り戻す3ステップ

2026年7月28日 2026年7月28日 AIの知識&トレンド

『AI 2040』から考える働き方の未来——AI時代に価値観を取り戻す3ステップ

・AI Futures Project(『AI 2027』のチーム)が公開した『AI 2040』は、超知能の到来を2040年まで意図的に遅らせようという約90ページの提案書です
・ただしブレーキを踏むこの計画ですら、2030〜2035年にAIがトップ専門家並みへ到達することは前提に置いています。つまり仕事の激変は免除されません
・空いた時間で何をするかを決めるために、価値観を取り戻す3ステップ(共同体を作る/体験を増やす/怒りを掘りAIに反論させる)を提示します

AIに任せられる範囲が、この1年でずいぶん広がりました。

調べものも、資料の下書きも、議事録も、投げれば返ってきます。手は、確かに空きます。

ですが、その空いた時間を何に使ったかと聞かれると、答えに詰まる。とりあえず別の仕事で埋めて、気づけば処理量だけが増えている。

心当たりはないでしょうか。

そんなことを考えていたときに読んだのが、『AI 2040』という文書でした。

『AI 2027』で知られる AI Futures Project が今年公開した、約90ページのシナリオです。超知能の到来を、2040年まで意図的に遅らせよう。そう提案しています。

読んで意外だったのは、これがブレーキを踏む計画であるにもかかわらず、2030年代の仕事はまったく助かっていないことでした。

『AI 2040』は、超知能を10年遅らせようという提案です

超知能を10年わざと遅らせるという提案書

まず、この文書が何なのかから始めます。

『AI 2040』は、AI Futures Project というチームが今年公開した、約90ページのシナリオです。中心にいるのはダニエル・ココタイロさん。昨年、超知能への最短経路を克明に描いた『AI 2027』で世界的に読まれた人です。

前作は、いわば下り坂のシミュレーションでした。AI企業が競争を続けると、どの年に何が起き、どこで人間が制御を失うのか。それを月単位で書いた文書で、賛否を含めて猛烈に読まれました。

今回は、その続きではありません。同じチームが、今度は「では、どうすればいいのか」を書いたのが『AI 2040』です。

書いてある提案は、率直に言って過激です。

米中が2029年までに合意し、超知能の到来を2040年まで意図的に遅らせる。

前提として、彼ら自身の見立てでは、何もしなければ超知能は2030年前後に来ます。つまりこれは「10年、わざとブレーキを踏もう」という提案です。

ここが面白いところで、著者たちは冒頭できっぱり断っています。

「Plan A と名付けたのは、これが予測ではなく勧告だからだ(It’s called Plan A because it’s a recommendation, not a prediction.)」

彼らは占い師ではなく、提案者として書いている。『AI 2027』が「このままだとこうなる」の書だったとすれば、『AI 2040』は「だからこうしよう」の書です。

そして、これを書いているのが誰かというと、AIの能力向上を最前線で追ってきた人たちです。

この業界で「遅らせよう」は、長いあいだ言いにくい言葉でした。進歩を止める側に回った瞬間、技術を分かっていない人の意見として片づけられるからです。

そのタブーを、アクセルの構造を一番よく知っている側が破った。だから、多くの人が真顔で読みました。

柱は3つ。透明化、並走、そして「相互確証計算破壊」

透明化・並走・抑止。3本セットで効く

提案の中身は、3本の柱でできています。順に見ていきます。

1つ目は、AI研究の完全な透明化です。

どの企業が、どれだけの計算資源を使い、何を訓練しているのか。それを相互に検証できる形で開示する。

ポイントは、道徳ではなく動機の話をしていることです。隠れて先に行けるなら、誰かは必ず隠れて先に行きます。だから、隠れること自体を成立させない。性善説をやめる設計です。

2つ目は、複数企業・複数国での並走です。

超知能に向かう道を、1社や1国が独走しない。あえて複数のプレイヤーが横並びで進む状態を作る。

これは普通に考えれば非効率です。一番強いところに資源を集めたほうが、速く着く。それでも並走させるのは、速さより「誰も単独で決められない状態」を優先しているからです。意図的な非効率、と言い換えてもいい。

3つ目が、いちばん物騒な名前をしています。相互確証計算破壊(Mutually Assured Compute Destruction)です。

合意を破った国の計算資源を、他国が破壊できる状態を相互に作っておく。つまり「抜け駆けしたら、あなたのデータセンターは止まる」という抑止です。

この名前には元ネタがあります。冷戦期の核抑止、相互確証破壊(Mutually Assured Destruction/MAD)です。頭に「Compute」を足しただけ。

正直に言えば、3本目の現実味は一番低いと思っています。他国のデータセンターを破壊できる状態を、両国が納得ずくで維持する。文章にすると1行ですが、実装は途方もない。

ただ、この語彙が出てきたこと自体が一つの情報です。AIの安全性を語るのに、いま人類が持ち出せる比喩が「冷戦」しかない。扱っている対象を、彼らは核と同じ棚に置いているということです。

そして3本は、セットでないと機能しません。透明化がなければ違反が見えず、見えなければ抑止は働かず、抑止がなければ並走は崩れる。どれか1つだけ実現しても意味がない、という設計になっています。

時間割は、2029年・2035年・2040年で刻まれています

2029合意、2035一時停止、2040解禁

『AI 2040』が具体的なのは、年号が入っているところです。

2029年、合意。 米中を軸に、透明化と相互監視の枠組みを成立させる。

ここが最初の、そしておそらく最大の関門です。あと3年で、いま最も対立している2国が、最も戦略的な技術について手の内を見せ合う合意にたどり着く。前提として相当に厳しい。

2030年から2035年、段階的な到達。 この6年で、AIは各分野のトップ専門家に並ぶ水準まで上がっていく。ここは止めません。止めるのは、その先です。

2035年、一時停止。 トップ人間専門家レベルで、いったんブレーキを踏む。人間が制御を保てる範囲に留めるための踊り場です。

2040年、解除。 制御の仕組みが整った前提で、超知能へ進む。

この時間割を眺めていて、僕が一番引っかかったのは2035年の停止ではありませんでした。その手前の、2030年から2035年までの6年間です。

ここは「遅らせる」対象に入っていません。むしろ、計画通りに進む前提で書かれている。

つまり Plan A が完璧に実現したとしても、2030年代の前半、僕らは「各分野のトップ専門家と同じ水準のAI」と一緒に働くことになります。

医師と同じ精度で読み、弁護士と同じ精度で条文を追い、トップコンサルタントと同じ精度で戦略を書く相手が、隣の席にいる状態です。しかも、それは Plan A が成功した場合の話です。

いまが2026年です。あと4年。

そしてその6年間は、いま40代の人が50代になり、50代の人が定年を視野に入れる期間と、そっくり重なります。この計画のいちばん静かな部分が、僕らの現役期間を丸ごと覆っているわけです。

彼らが恐れているのは、滅亡と「力の一極集中」の両方です

暴走だけでなく、力が一箇所に集まることも

なぜ、ここまでして遅らせようとするのか。

分かりやすいほうの理由は、制御の喪失です。人間が扱えない知能が先に生まれてしまうリスク。これは想像しやすい。

ですが、著者たちが並べて挙げているもう一つの理由は、少し毛色が違います。

極端な力の集中(an extreme concentration of power)です。

これは前作『AI 2027』の時点から一貫しています。彼らはずっと、2つの悪い結末を並べて書いてきました。AIが人類の手を離れる未来と、AIを握った誰かが他の全員を握る未来。

後者には、滅亡はありません。誰も死なない。世界はむしろ整然と運営されるかもしれない。それでも彼らは、それを避けるべき結末として並べています。

だから3本柱の2つ目が「複数企業・複数国での並走」なんです。あれは効率の話でも公平の話でもなく、一箇所に集めないための設計でした。

そして、この「誰も選んでいないのに全体が動く」構造は、国家間だけの話ではありません。

いま多くの経営者も、AI導入を積極的に選んでいるわけではないと思います。競合が使えば自社も使わざるを得ない。使わない判断をした会社は、数年で追いつけなくなる。誰も望んでいない方向に、全体が一斉に動いていく。

米中が競争をやめられないのと、同じ形です。上も下も選んでいない。

ここで正直に書いておくと、分散が僕ら働く側にとって直接の味方かというと、そう単純ではありません。AIの提供者が増えて競争すればAI労働の値段は下がり、人間と比べたときの代替は、むしろ速く進みます。

ただ、一つだけ確実に効く筋道があります。分散が個人にもたらすのは、交渉力ではなく「退出路」です。

歴史的に、働く人が交渉力を失うのは、生産手段に手が届かないときでした。AIが分散して安く手に入るなら、個人が一人で組織規模の生産力を持てる。

つまり「どう雇われるかを選べる」ではなく、「雇われるかどうかを選べる」という話になります。

必要条件ではありますが、十分条件ではありません。道が開いていることと、そこを歩けることは別だからです。

AIの進化が遅れても、2030年代には仕事が激変します

時間はもらえるが、変化は免除されない

ここが、この記事でいちばん言いたいところです。

『AI 2040』が僕らにくれるのは、猶予です。超知能の到来を10年先送りにすることで、社会が制度を整え、人間が考える時間を作る。

くれないものもあります。仕事が変わらないで済む未来です。

繰り返しますが、2030年から2035年は計画のうちに入っています。遅らせるのは超知能であって、トップ専門家並みのAIではありません。

つまり、世界で最もブレーキを踏みたがっている人たちの計画ですら、2030年代の仕事が激変することは前提に置いているということです。

止まるほうに全力で賭けた場合の、これが最良のシナリオです。実際にはこれより速い可能性のほうが高い。

猶予はもらえますが、免除はもらえません。

しかも、いま起きていることには歴史的に珍しい特徴があります。

蒸気機関も、工場設備も、メインフレームも、基幹システムも、順番は決まっていました。企業が先に導入して、個人には後から降りてくる。

今回は、その順序が逆です。個人のほうが先に使っています。企業が稟議とセキュリティ規程を通しているあいだに、個人はもう毎日触っている。

つまり僕らはいま、企業と同じ道具を、企業より先に手にしている珍しい時期にいます。優位の中身は「使えること」ではなく「切り替えが速いこと」のほうです。

ただし、この窓がいつまで開いているかは分かりません。企業側の導入が追いついた瞬間に閉じる可能性は十分あります。

つまり、個人にとっての猶予は、Plan A が語る10年よりもっと短いかもしれない。

そして、ここが本題の入口です。

猶予とは、時間のことです。時間をもらったら、それを何かに使う必要があります。使わなければ、ただ過ぎるだけです。

彼らが国家レベルで10年を買おうとしているのは、その10年で「どういう社会にするか」を決めるためです。決めないまま10年が経てば、10年遅く同じ場所に着くだけになる。

同じことが、そのまま個人にも当てはまります。

AIで作業が減って、時間が空く。その時間で何をするかを決めていなければ、空いた時間はまた作業で埋まります。5年経って、処理量だけが増えている。冒頭に書いた、あの感覚です。

そして、この宿題には、ひとつ厄介な性質があります。

作業を任せる相手は選べても、任せたあとに何をしたいかは、誰も代わりに決めてくれないということです。

「で、あなたは何がしたいんですか」

これは、いま働いている全員に配られた問いです。ここから先は、その話をします。

AIが最初に持っていくのは、仕事ではなく手応えです

AIが先に持っていくのは仕事より手応え

AIの導入で最初に失われるものは、雇用ではありません。

手応えです。

心理学に、自己決定理論(Self-Determination Theory)という考え方があります。デシとライアンという2人の心理学者が提唱したもので、人が意欲を保つには自律性・有能感・関係性の3つが必要だと言います。

このうち、AIが真っ先に触るのが「有能感」です。

有能感というのは、自分の働きかけが効いているという手応えと、腕が上がっているという実感のことです。ざっくり言えば、自分がやったから、この結果が出た、という線

AIが結果を出すと、その線が切れます。

出てくるものは良くなっています。速いし、抜け漏れも少ない。なのに、うれしくない。徹夜で作った不格好な資料のほうが、なぜか記憶に残っている。あの感覚です。

3つのうち、関係性はしばらく安全です。AIに感謝されても、人はうれしくないからです。自律性は使い方で割れます。何をやらせるかを自分で決めている人は上がり、降ってきた指示をAIに流すだけの人は下がる。

そして有能感は、レイヤーを上げれば戻ってきます。

僕自身、エージェントを自分の下に部下のように置いて仕事をしています。自分でライブコーディングをしてツールを作ることもある。正直なところ、この作り方をしているときは、しっかり有能感があります。実行から設計に移っただけで、線は切れていない。

ただし条件が一つあります。仕様を、自分で決めていること。

降ってきた仕様をエージェントに流すだけなら、レイヤーは上がっていません。分かれ目は、AIを使うかどうかではない。何をやらせるかを、自分が決めているかどうかです。

▶︎ あわせて読みたい:AIに任せるほど自分が磨かれる?——「バカになる」説への反論

恐れの本体は、失業ではなく「積み上げた過去の無効化」です

怖いのは失業より、積み上げた過去が消えること

職場でAIの話をすると、なぜか空気が重くなる。技術の話をしているはずなのに、誰かが少し傷ついたような顔をする。

本当の競争相手は、AIではありません。先に使い始めた同僚です。同じ部署の、同じ年次の、これまで自分と同じ評価だった人。その人が急に3倍の量を出し始めたとき、脅かされているのは職ではなく、立ち位置です。

そしてもう一段、口に出しにくい恐れがあります。

失業は、実は未来の話です。未来の話は怖いけれど、転職すれば取り戻せる。

一方で「あなたが20年かけて身につけた技能は、いま誰でも数秒で出せます」は、過去に向かってきます。過去は、取り戻せません

だから言えない。言うと負けを認めることになるので、みんな主語を大きくします。日本の雇用が、若い世代が、と。主語が大きくなったときは、たいてい自分の話をしています。

ただ、ここに一つ救いがあります。効率で負けた行為は、消えるのではなく「競技」になります。

自動車があるのに、僕らは100m走に熱狂します。フォークリフトがあるのに、重量挙げを見る。計算が好きな人が暗算大会で競うことも、電卓があっても成立します。

チェスもそうでした。1997年、IBMのディープブルーが世界王者ガルリ・カスパロフに勝ち、人間の知性の象徴が抜かれたと言われた。それから約30年、オンラインの競技人口は2025年に2億人を超えました。

正直に書いておくと、この盛り上がりの引き金はディープブルーではなく、2020年のNetflixドラマとコロナ禍です。ただ、確かなことが一つあります。AIに負けても、その競技は死ななかった。

画像や映像のクリエイターがAIに感じている抵抗感も、多くは「業務としての費用対効果」の話であって、趣味や個人の創作としてやることは、誰にも否定されていません。

ただし競技化は、全員を食わせません。頂点が総取りしやすいからです。「楽しみとして残る」ことと「それで食える」ことは、切り分けたほうが健全です。

日本人が失った「大きな物語」は、宗教ではなく会社でした

会社が配っていた人生の筋書きが消えた

では、何を手がかりに決めればいいのか。ここで少し遠回りをします。

フランスの哲学者、ジャン=フランソワ・リオタールが1979年に『ポストモダンの条件』という本を書きました。そこで彼は、ポストモダンとは「大きな物語(grand récit)」への不信である、と書いています。

大きな物語というのは、社会全体が共有していて、個人の人生に意味を配ってくれる筋書きのことです。それを信じている限り、自分の毎日がその筋書きのどこに位置しているかが分かる。

日本は無宗教だから大きな物語がない、と説明されることが多い。でも、それは違うと思っています。

日本人が失った大きな物語は、宗教ではなく会社でした。

新卒で入り、年次で昇進し、家を買い、子どもを大学に入れ、定年で花束をもらう。この筋書きは、宗教に匹敵する強度を持っていました。何をすべきかだけでなく、いま自分が人生のどのあたりにいるのかまで教えてくれた。しかも、隣の人も同じ物語を生きている。だから疑わずに済んだ。

宗教のある社会では、会社が壊れても物語は残ります。日本では、会社が唯一の供給源でした。だから、そこが崩れたときの空白が、他の国より大きい。

そこにAIが来ます。

AIは、仕事が意味を供給する最後の細いパイプを、さらに細くします。時間が空くのではなく、時間の中身が空く。効率化されたのは作業ですが、一緒に持っていかれたのは、その作業が自分に配っていた意味のほうです。

サルトルは「人間は自由の刑に処せられている」と言いました。刑、という言葉を選んだのが正確だと思います。選択肢が増えることと、楽になることは、別のことです。

▶︎ あわせて読みたい:仕事の意味はどこへ行くのか——ローマ教皇がAI時代に出した答え

AIに「何をすべきか」と聞くと、世間の平均が返ってきます

答えを聞くのをやめて質問をさせる

空白ができたとき、多くの人がやることは一つです。

AIに聞く。「僕はこれから何をすべきでしょうか」「40代のキャリアはどうするのが正解ですか」

やめたほうがいいと思っています。返ってくるのは、統計的な平均だからです。膨大なテキストを学習したモデルに「何をすべきか」を聞けば、世の中の大多数が語ってきた答えの重心が返ってくる。当たり前のことです。

それは、新しい大きな物語のように見えます。滑らかで、それらしくて、反論しにくい。

でも中身は、世間の平均です。しかも、あなたの事情を1グラムも含んでいない平均。会社という物語を失った人が、平均という物語に乗り換えるだけなら、前より悪いかもしれません。少なくとも会社の物語には、同じ物語を生きる同僚がいました。

では、どうするのか。

人類が価値観を手に入れてきた方法は、歴史的に3つしかありません。共同体に教わる。体験して痛む。誰かと対話する。

この3つは全部死んだと言われてきました。共同体は解体し、体験は金と時間がかかり、腹を割って話せる相手はいなくなった、と。

ですが、AIがある前提で数えなおすと、3つとも取り戻せます

価値観を取り戻す3ステップ——共同体を作り、体験を増やし、対話する

共同体を作り、体験を増やし、その上で対話する

順番に意味があります。ここが肝です。

ステップ1:共同体は、参加するより作る側に回る

なぜ会社しか共同体になれなかったのか。作るのが高かったからです。場を持つには事務局が要り、告知には広報が要り、集まるには会場が要った。いまは、その全部が一人で回ります。

ここで大事なのは、コストが下がった話ではありません。参加する側と作る側とでは、手に入るものが違うということです。

参加者は、価値観を受け取ります。作る側は、毎回それを決めなければいけません。誰を呼ぶのか、何を話すのか、どういう空気にしたいのか。5人の勉強会でも、開催のたびに「自分はどんな場にしたいのか」を問われます。

共同体を作るというのは、価値観を表明し続ける仕事です。条件は一つだけ、自分が始めたものであること。

AIを使いこなして、ある局面で自分が価値を出せれば、それをベースに人との関係も築ける。自己決定理論の3つ目、関係性がここで回りはじめます。

ステップ2:浮いた時間は、業務ではなく体験に使う

効率化の目的を、言い換えてください。余暇を作るためではなく、体験の原資を作るためです。

AIで時間が浮いたとき、人は2種類に分かれます。浮いた時間をまた効率的な仕事で埋める人と、その時間で経験を買う人。5年後、この2人は別の場所にいます。

前者が手にするのは処理量です。処理量は、来年もっと安いAIが出た瞬間に値下がりします。後者が手にするのは体験です。体験は、値下がりしません。

下調べ、議事録、日程調整、移動の段取り。この「本番の前にある作業」を削るほど、行ける場所と、会える人と、試せる回数が増えます。

価値観は、頭の中で考えて見つかるものではありません。実際に何かを見て、腹が立ったり、うらやましくなったりする。その反応が、材料になります

ステップ3:怒りと嫉妬を掘り、AIには反論させる

ここでようやく、対話の出番です。

対話にはずっと制約がありました。相手の時間を奪う。同じ話を蒸し返せない。恥ずかしいことは言えない。そして相手には利害がある。上司に転職を相談すれば、引き止められます。

AIは、この制約を全部外します。24時間、何度でも、恥をかかずに、利害のない相手と。使い方は4つです。

第一に、未来ではなく過去を掘る。「これから何がしたいか」は考えても出てきません。価値観は未来に探すものではなく、過去にもう現れているからです。「私の20代・30代について、価値観を掘る質問を一問ずつしてください」と頼んでください。

第二に、好きなものより怒りと嫉妬を材料にする。好きなことへの答えには建前が混ざりますが、怒りには混ざりません。腹が立つのは、大事にしているものが踏まれたときだけだからです。うらやましいと感じた相手も、自分が本当は行きたい方向を指しています。

第三に、毎回「反論してください」と頼む。AIは同意しすぎます。放っておくと、あなたの思い込みを丁寧に補強する装置になります。必要なのは、優しい相談相手ではなく、利害のない反対尋問です。

第四に、一度で決めない。記録を残して、2ヶ月後に同じ問いから始めてください。変わらなかったところが、あなたの価値観です

そして、順番を守ってください。

腕のいい料理人がいても、冷蔵庫が空なら何も出てきません。AIは驚くほど腕のいい料理人ですが、材料を持ってきてはくれない。多くの人がAIに価値観を相談して空回りするのは、AIの性能が足りないからではなく、冷蔵庫が空だからです。

▶︎ あわせて読みたい:AIの「おべっか」は何を壊すか——褒め殺しAIとの付き合い方

全員が同じAIに相談する世界だけは、避けたい

相談相手を複数から選べること自体に価値

最後に、一つだけ懸念を書かせてください。

全人類が、自分の生き方を、同じ一つのAIに相談している世界を想像してみてください。

悪意は要りません。誰も何も企んでいなくていい。それでも、そのAIが持っているわずかな傾き——「挑戦は良いことだ」「安定は退屈だ」といった、ほんの少しの重心のズレ——が、何十億人の人生の選択に、薄く、均等に混ざります。

一人あたりの影響は、測定できないほど小さい。全体では、人類の意思決定の分布が動きます。これは効率の問題ではないので、効率の議論では絶対に検出されません。

『AI 2040』の著者たちが、力の一極集中を滅亡と並べて恐れていたのは、こういうことだと思っています。彼らは国家と企業の話をしていましたが、同じ構造は、僕らの手元にもある。

だから、相談相手を複数から選べること自体に、価値があります

違うモデルに同じ問いを投げてみる。答えが割れたところを覚えておく。AIだけでなく、人にも聞く。ステップ1で作った場に持っていく。割れているうちは、まだ自分で決めている証拠です。

そして、あの問いに戻ります。

「で、あなたは何がしたいんですか」

いま答えられなくても、まったく問題ありません。答えは頭の中にはなく、これから作る場と、これから行く場所と、これから何度もやり直す対話の中にあります。

『AI 2040』が国家に求めているのは、10年ぶんの猶予です。僕らが手にしているのは、AIが作業を肩代わりしてくれる、その日ごとの数時間です。規模は違いますが、意味は同じだと思っています。時間を買ったなら、それで何を決めるのかまでがセットです。

AIの一番大事な使い方は、効率化ではありません。空いた時間で、何がしたいかを一緒に考えることです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 『AI 2040』は誰が書いた、どんな文書ですか?

AI Futures Project というチームが公開した約90ページのシナリオです。中心にいるのは、超知能への最短経路を描いた『AI 2027』で知られるダニエル・ココタイロさん。米中が2029年までに合意し、超知能の到来を2040年まで意図的に遅らせるという内容で、著者自身が「予測ではなく勧告」と明言しています。柱は、AI研究の完全な透明化、複数企業・複数国での並走、相互確証計算破壊(Mutually Assured Compute Destruction)の3本です。

Q2. 超知能が2040年まで遅れるなら、仕事への影響も先送りになりますか?

なりません。計画で遅らせるのは超知能であって、トップ専門家並みのAIではないからです。時間割では2030年から2035年にかけて、AIが各分野のトップ専門家に並ぶ水準へ段階的に到達することが前提に置かれています。つまり、世界で最もブレーキを踏みたがっている人たちの計画ですら、2030年代の仕事が激変することは織り込み済みです。猶予はもらえますが、免除はもらえません。

Q3. 「価値観を取り戻す3ステップ」とは何ですか?

共同体を作る、体験を増やす、その上で対話する、の3つです。ステップ1は、共同体に参加するのではなく作る側に回ること。作る側は毎回「どんな場にしたいか」を決めることになるからです。ステップ2は、効率化で浮いた時間を業務ではなく体験に使うこと。体験が対話の材料になります。ステップ3は、AIとの対話で過去(特に怒りと嫉妬)を掘り、毎回「反論してください」と頼むこと。順番が大事で、材料がないまま対話しても空回りします。

あわせて読みたい・聴きたい

新著(7/27発売)『Claude 最強のAI自動化術』:https://amzn.to/4eTUVG1

YouTube『いけともch』:https://www.youtube.com/@iketomoch

Podcast『いけとも尾原DeepなAIニュース』:https://open.spotify.com/show/3hGAbKZI5oo9PsbFI1IxTr

合わせて読みたい
関連記事

公式LINEで最新ニュースをゲット

LINE登録の無料特典
LINE登録の無料特典
icon

最新のAIニュース
毎週お届け

icon

生成AIの業務別の
ビジネス活用シーン

がわかるAIチャット

icon

過去のAIニュースから
事実を確認できる
何でもAI相談チャット

icon

ニュース動画
アーカイブ

ページトップへ