「3ヶ月前にダメだったAIは、今やもう3倍動く」――。
Googleの社内コードはすでに75%がAIで書かれている。驚くのは、わずか半年前はたった15%であった。
これはもう、年に一度の検証では「3周遅れ」になる時代だ。AI前提経営に踏み切れない経営者へ、警鐘を込めて贈る対談録。
ポッドキャスト(いけとも尾原のディープなAIニュース)はこちら:
目次
池田:尾原さん、Google Cloud Next 2026、お疲れさまでした。Facebookで「ヤバい」と発信されてましたが、実際どうだったんですか?
尾原:もう一言で言うと、ヤバいんですよ。
尾原:ラスベガスで開かれたGoogle Cloudのエンタープライズ部門の最大カンファレンスなんですけど、CESやAdobe Summitと比べても、来場者の熱量がもう「桁違い」と言っていいレベルでした。
池田:その熱量の正体って、何なんでしょう?
尾原:チップからインフラ、モデル、アプリケーション、ユースケースまで、Googleがフルスタックで全部押さえに来てるんですよ。
尾原:しかも、もともとビハインド気味だったクラウドビジネスが、AIエージェント時代になった瞬間、一気に逆転を狙える位置に来た。
池田:なるほど。具体的にどの数字が一番衝撃でした?
尾原:これは公式に明かされた数字なんですが――。
尾原:Google社内の新規コード、その75%がもうAIで生成されていて、しかも全部エンジニアの承認を通ったコードなんです。
池田:75%……。
尾原:困ったことに、半年前は15%だったんですよ。
尾原:それが半年で75%まで来てしまった。
池田:たった半年で。
尾原:しかもPichai CEOいわく、特定の複雑なコード移行プロジェクトでは、従来比6倍の速度で完了したケースまである。
尾原:ここまで来ちゃってるのが、今のGoogle社内の現実なんです。
池田:開発の次にインパクトが大きい領域って、何でしたか?
尾原:マーケティングですね。
尾原:Google社内のChromeブランドのキャンペーンで、Geminiを使って数千のクリエイティブを自動生成したんですよ。
池田:数千。
尾原:その結果、ターンアラウンドタイム――出稿してテストして効果測定する1サイクルの時間が「70%高速化」した。
池田:3割の時間で回せると。
尾原:そう。さらに大事なのは、クリエイティブの質も上がってコンバージョン率が20%上昇したこと。
尾原:マーケはもともとデータが整っているから、AIエージェントを乗せたときのインパクトが出やすいんです。
池田:あと、カスタマーサービスや店舗対応みたいな現場系の事例も多かったですよね。少ない人数で2倍の対応量、みたいな。
尾原:そうなんですよ。
尾原:そもそも論として、Google Cloudの全顧客の「ほぼ75%」が、すでにAIプロダクトを使ってビジネスを動かしている。
尾原:逆にAIを使っていないユーザーのほうが、もはやマイナーな存在になりつつある、という話なんですよね。
池田:1年ほど前に「企業のGenAI投資の95%が失敗している」という調査が話題になりましたよね。MIT NANDAの『The GenAI Divide』レポート。
池田:PoCは行けるけど本番環境はまだ、という空気が確かにあった。
尾原:おっしゃる通りです。
尾原:ただ、今回出てきたウォルマートさんは、一度はPoCで失敗してるんですよ。そこからデータの整備を全部やり直した。
尾原:エージェントを前提としたワークフローに作り変えて、店舗のチームリーダーには全員Pixel Pro Foldを配ったんです。
池田:折りたたみのスマホを。
尾原:いちいちバックヤードに戻らなくても、その場で顧客対応やサプライチェーンの問題解決ができるようにした。
尾原:それから別のセッションで紹介されていたカナダのTELUS Health――医療IT企業の事例も衝撃でした。
尾原:報告書の生成時間がいきなり80%削減されたんです。
池田:8割。
尾原:これらの事例から見えてくるのは、結局「ガベージイン・ガベージアウト」の世界だということ。
尾原:AIエージェントに業務を任せるって、新しい都市に水道インフラを通すようなものなんですよ。
尾原:水道にきれいな水が流れるデータパイプラインを、どう設計するか。
尾原:そして、AIに任せることを前提にした業務フローへの作り直し。この二つが揃わないと、10倍速の経営は実現できない。
尾原:今回キーワードとして出てきたのが「ROI 2.0」なんです。
池田:2.0、というと?
尾原:単なるコスト削減やタスクの効率化をROIの軸にするのではなくて、ビジネス目的に到達することによる収益増や市場シェアの獲得を見る、という考え方ですね。
尾原:そのために、AIエージェントを前提としたワークフローに、コアワークフローの半分以上を変えていく。
尾原:目的設定そのものを変えていくこと。これが本当に大事になってきている、という話を繰り返していました。
池田:データ基盤の発表で気になったのが、Agentic Data Cloudという概念でした。
池田:社内のあちこちに散らばっているデータを、無理に統合せず、AIで使えるようにラベリング(アノテーション)だけしていく。カタログとして整理する。
池田:これって実際に各社で動いてるんですか?
尾原:そこはまだ途上な部分もあるんですけど、現実的には「アノテーション」――入ってきたデータに『これは何のために使うデータですか』というラベルをどんどん貼っていく――が走り始めています。
尾原:そしてもう一つでかいのが、TPUの世代交代。
尾原:第8世代になって、初めてトレーニング用の「TPU 8t」と推論用の「TPU 8i」に明確に分けたんですよ。
池田:分離した、と。
尾原:NVIDIAのVera RubinやFeynmanも、推論効率を主軸に据える方向へ動いている。
尾原:AIエージェント時代になると、長文のコンテキストをどう保持しながら動かすかが勝負所になるので、そこに特化したチップ環境を作りに行ってるんです。
池田:なるほど。
尾原:そしてここからが面白いんですが――。
尾原:僕がGoogleの本当の強さだと感じたのは、ラベリングや検索インフラそのものではなく、「ステート」と「ワークフロー」を握りに来ているところなんです。
池田:ステート、というと?
尾原:生成AIってもともと「ステートレス」と呼ばれるように、一回一回の会話では前の記憶を保持しないんですよね。
尾原:だから、何らかの形でプロンプトに「池田さんが普段こういうことをやってる人ですよ」というメモリーを呼び出してきたり、必要な文脈をRAGで拾ってきたりする必要がある。
尾原:このステートをどう供給するかが、AIエージェントに連続的に仕事を任せるときに、ものすごく重要になる。
池田:その文脈データはどこに眠っているんですか?
尾原:ワークフローツールの中なんですよ。
尾原:会話、カレンダー、ミーティングの議事録――全部そこにある。
尾原:つまり、ワークフローツールを持っている会社が圧倒的に強くなる。
尾原:それを見たときに、Gmail、Googleカレンダー、そして何気にGoogle Docs――誰がいつ何をアップデートしたかのログまで残ってる――これらが最強の「ステート供給源」になるわけです。
池田:それで言うと、Google Meetがリアルタイムの会議ツールに進化していたじゃないですか。
池田:ワンクリックで会議を始められるよ、っていうあれ。あれも一つのピースだなと。
尾原:そう、そう、そう。
尾原:これはAIに限らずスタートアップの戦略の基本で、「ツールとネットワーク」という考え方があるんですね。
尾原:最初は「便利なツールだよ」と入っていって、データが溜まると、そのデータ自体がネットワーク効果を生む。
池田:今のMeetは、ステートを握りに来てる、と。
尾原:そうなんですよ。
尾原:単に外部ミーティングを議事録化してくれるだけじゃない。
尾原:その議事録が一箇所に溜まっているから、次の業務で何も入力していないのに、自分の文脈を踏まえてアウトプットしてくれる。
尾原:最終的には、自分が何も指示しなくてもAIエージェントが先回りして動いてくれる。
尾原:そこまで行く道筋を、Googleは緻密に組み立てているんです。
池田:その視点で見ると、ちょうど同時期にOpenAIもいろいろ出してきましたよね。
池田:GPTの命名体系も刷新されたし、Workspace AgentsというSlackやSalesforceに直接プラグインできる新サービスも発表された。
尾原:はい。
池田:その中で個人的に注目したのが、Codex for Macに追加された「Chronicle」という機能。
池田:Mac限定なんですけど、Codexアプリを入れておくと、ユーザーが操作しているデスクトップの様子をスクリーンキャプチャで定期的に取得して、コンテキストとして文脈化してくれる。
尾原:ほう。
池田:「ちょっと前にやってたあれ、続きやっといてよ」と言うと、いちいちスクショ撮ったりコピペしなくても続きをやってくれる。
池田:ワークフローを持っていないOpenAIが、ユーザーのステートを握りに行くための一手だなと感じました。
尾原:ロジカルに考えると当然そうなりますよね。
尾原:OpenAIはAtlasというChromiumベースのMac向けブラウザも2025年10月に出していて、ブラウザの履歴やコンピューター操作の履歴を握りに行きたい意図は見えるんです。
尾原:ただ、それがユーザーにとって嬉しいかどうかが直結しきれていない印象はある。
池田:嬉しさが曖昧、と。
尾原:これからのAIエージェント時代に大事なのは、特にコンシューマー領域では「インテンションドリブン」だと思うんですよ。
尾原:ユーザーがやりたいと思ったことを、エージェントが先回りしてやってくれる。
尾原:「あ」と言うとお茶が出てきて、「これ」と言うと着替えが出てくる。
尾原:そんな「あうんの呼吸」を作っていくこと。そのベースとなるのがステートなんです。
池田:Metaも結構な動きをしてますよね。
池田:米国にいる全従業員のPCの操作ログを取って、AIエージェントの学習データに使うっていう「Model Capability Initiative(MCI)」を発表した。
尾原:あれ、社内チャットがリークしましたよね。「dystopian(ディストピア的)」だっていう従業員の声が報道されて。
池田:当然そうなりますよね。
池田:ただ、そこまでパワープレイしないと追いつけない、という危機感の裏返しでもある。
尾原:Metaはテック業界の北朝鮮みたいになってきていて、勝つためなら手段を選ばない(笑)。
尾原:スマートグラスのカメラ映像も、ケニアのナイロビにあるSamaという会社にアノテーションを委託していて、作業員へのインタビューでその実態が今年に入って表沙汰になった。BBCも報道していました。
尾原:これは要するに、テキスト指示じゃなくて画面を見れば分かる――というマルチモーダルな解釈力を上げていくゲームなんですよ。
池田:自動運転と同じ構造ですね。
尾原:そう。
尾原:シミュレーションだけじゃ例外事例を網羅できないから、TeslaやWaymoは実車をたくさん走らせて、そのデータでシミュレーションを更新していく。
尾原:今、明らかに熱いのが「コンピュータユージング」――ユーザーのマウスやアプリの挙動を解釈して、エージェントがコンピュータの中のソフトを勝手に動かして目的に到達する、という領域です。
池田:日本企業の事例、今回ほぼ出てこなかったですよね。
尾原:それね、裏話を聞いたんですけど、日本企業は導入自体は結構進んでるそうなんです。
尾原:ただ事例として出すときは「業務時間が何%削減」みたいなインパクトをセットで出すルールがある会社が多くて、そこの数字がまだ揃ってないから「うちはまだ」と遠慮されているケースが多いそうで。
池田:先に進んでいる、けど発表していないだけ、と。
尾原:少なくとも、アメリカ一強というわけでもない。
尾原:オーストラリアやカナダの事例も今回はかなり出ていました。
尾原:それから大事なポイントとして――。
尾原:今まで「コストが合わない」と思って諦めていた施策が、新しいGPU環境やTPU第7世代で再計算したら、結果として全然ワークするようになった、という事例が増えているんです。
池田:それが今、まさに起きているわけですね。
尾原:今の進化はエクスポネンシャル(指数関数的)なんですよ。
尾原:2年かけてもできなかったことが、半年でできるようになり、3ヶ月でできるようになり、1ヶ月後には5倍になる。
尾原:最初に話したように、Googleですら半年前は社内コードのAI生成比率が50%だったのが、今75%です。
池田:3ヶ月前に検証してダメだったから諦める、というのは。
尾原:致命的ですよ。
尾原:ここから加速度的に進むので、「1ヶ月前にダメだったものが、そろそろ3倍になってるからペースルックしようか」くらいの感覚でいないと、この時代の経営判断を誤ります。
尾原:年に一度試して「1年前ダメでした」って、もう何の話してるんだっけ、ですよ。
池田:3ヶ月単位で見る、と。
尾原:気づいたら、1周どころか3周時代遅れになっているかもしれない。
尾原:それが今日のインサイトかな、と思います。
池田:最近、Claude Codeをガンガン回してるんですけど、AIツールを業務で使い分けるって、知らないと結構難しいじゃないですか。
尾原:はい。
池田:標準コネクタがあって、カスタムMCPがあって、CLIがあって、APIがあって、ブラウジングがあって……。
池田:これがいよいよ体系として整理できそうになってきたんです。
池田:例えばGoogle Workspaceを操作するにしても、MCPもCLIも繋がっていると、AIがどっちを使うか迷ってエラーになることがあった。
尾原:あるあるですね。
池田:それを「こういう順番で使い分ければいい」と説明できるようになってきて、嬉しいなと。
池田:最近はそれをClaude Codeで動画にしてみたり、説明の方法もいろいろ試してます。
尾原:僕は二つあって。
尾原:ショートな話だと、音声入力です。
尾原:これまでずっとSuperWhisperを使っていたんですけど、Eleven LabsのScribeというAPIがエグいくらい正確で、レスポンスタイムは少しかかるんですけど精度が桁違いなんです。
池田:Whisperから乗り換えるくらい。
尾原:もう一つは前回も話したLLM Wikiですね。
尾原:結局さっき言ったように、ステートを把握していくことが大事だから、自分のノウハウや過去の思想をWikiとして、どんなラベリングをつけるか、どの知識同士のリンク構造を作るか――ここを徹底的にやっていく。
尾原:LLMネイティブの知識体系を作るうえで、Brand IntelligenceもNarrative Catalogも、結局はアノテーションの基礎概念=「スキル」をどう作るかの話に帰着する。
池田:奥が深いですね。
尾原:ここをがっちりやっていくことが、これから本当に重要になってくるかなと思っています。
経営の意思決定サイクルを「年単位」から「3ヶ月単位」へ。
Googleがフルスタックで攻めてくる中、勝者と敗者を分けるのは、ステートとワークフローを握れているかどうか。
そして何より、AIエージェントを「前提」として業務を組み直す覚悟があるかどうか。
3ヶ月後、自分の会社がどの位置に立っているか――今日の意思決定が、その答えを決める。
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