DeepSeekが9月10日に公開した「DeepSeek-V4.1-Flash」は、同社が新アーキテクチャ系列で最も小さいと位置づけるモデルです。ところがこの「最小」が、4月にプレビュー公開され8月に正式版となった1.6兆パラメータの旗艦モデルV4-Proを、引退に追い込みました。9月14日以降、V4-Proへのリクエストはすべて自動でV4.1-Flashへ転送されます。
同時に価格も下がりました。8月に最大1,100%の値上げをして開発者を驚かせた会社が、1か月足らずで値下げに転じています。
この記事では、V4.1-Flashが本当に「コスパ最強」に戻ったのかを、入力・出力の単価比較と第三者計測の速度・知能スコアから検証します。結論を先に言えば、単発処理では明確に強く、長時間タスクでは他の安価モデルに譲る場面があります。使い分けの線引きまで整理します。
目次
まず事実関係を押さえます。V4.1-Flashは2026年9月10日に正式公開されました。前日には1日限定のベータ版が出ており、開発者はdeepseek-v4.1-flash-expires-on-0910という名前で試せる形でした(TechNode)。
「最小」という表現は誤解を招きます。総パラメータは552B(5,520億)で、前世代のV4-Flashの約2倍です。小さいのは1回の処理で実際に動く部分で、入力時に8B、出力時に16Bしか使いません。巨大な本体を持ちながら、動かすのは一部だけという設計です(Hugging Face)。
そのうえでDeepSeekは、「複数者によるテストで、性能・コスト・速度・総実行時間においてV4.1-FlashがV4-Proを上回った」として、旗艦の引退を決めました。9月14日12時(北京時間、04:00 UTC)以降、V4-Proへのリクエストはすべてこの小さいモデルへ流れ、課金もFlash料金になります(TechNode)。V4-FlashとV4-Flash-Vision-Expも同時に終了しました。
技術的な肝は、会話の文脈を保持する領域を1トークンあたり890バイトまで圧縮した点です。前世代の約4分の1で、GPUメモリの必要量も4分の1、SSDは8分の1になったと公式は説明しています(DeepSeek公式)。同じGPUで同時にさばける処理が増えれば、原価は下がります。値下げは気前のよさではなく、設計変更の結果です。
ちなみに、この「小ささ」は手元で動かせることを意味しません。公開直後の開発者コミュニティでは、本体をFP4形式に圧縮しても約306GB、記憶を担うEngram部分がさらに約204GBという試算が投稿され、手元のマシンで動かす構成が議論になりました(Hacker News)。オープンウェイトであることと、気軽に自社サーバーへ置けることは別の話です。
コスパを語るなら、同じFlash級のモデルと単価を並べるのが早いです。100万トークンあたりの米ドル建てで比較します。
| モデル | 入力 | 出力 | 備考 |
| — | — | — | — |
| DeepSeek-V4.1-Flash | 0.15 | 0.60 | オフピーク。ピーク時は2倍 |
| Qwen3.8-Flash | 0.113 | 0.382 | 東京など。シンガポールは0.15/0.47 |
| GLM-5.3-Flash | 0.15 | 0.50 | 発売記念の半額は9月9日まで |
| GPT-5.6 Luna | 0.20 | 1.20 | Batch処理なら半額 |
DeepSeekのオフピーク価格は入力0.15ドル、出力0.60ドルです(OpenRouter)。時間帯別料金を採用しており、混雑する時間帯は2倍の0.30ドル/1.20ドルになります。今回の値下げ幅は最大32%と報じられていますが、これはDeepSeekの公式発表ではなくBloomberg Intelligenceのアナリスト試算です(TNW)。
対する中国勢2社は、8月26日という同じ日にモデルを投入しました。Qwen3.8-Flashは、東京を含む多くのリージョンで入力0.113ドル、出力0.382ドル。シンガポール経由だと0.15ドル/0.47ドルになります(Alibaba Cloud)。GLM-5.3-Flashは入力0.15ドル、出力0.50ドルで、発売記念の半額提供は9月9日で終了予定とされていました。ただし本稿執筆時点でもOpenRouter上は半額表示が残っており、延長かページ未更新かは確認できていません(OpenRouter)。
OpenAIのGPT-5.6 Lunaは入力0.20ドル、出力1.20ドル。7月30日に80%の値下げを実施した後の価格です(OpenAI)。
ここから読み取れることは明快です。単価だけなら、DeepSeekは「最安」ではありません。出力はQwenより6割ほど高く、オフピークでようやく中国勢と同じ土俵に乗り、ピーク時間帯にはLunaの出力単価と並びます。にもかかわらずコスパの評価が上がるのは、次に見る速度が効いてくるからです。
第三者機関Artificial Analysisの計測では、V4.1-Flashの出力速度は毎秒約217トークンでした。GLM-5.3-Flashが約90、GPT-5.6 Lunaが約116、Qwen3.8-Flash-Nextが約53ですから、同じ価格帯で2倍から4倍の速さということになります(各モデルの個別ページ基準。Artificial Analysis)。最初の応答が返るまでも約1.1秒です。
出力単価がQwenより6割高くても、処理が4倍速く終わるなら、待ち時間を含めた実務コストの評価は変わります。バッチ処理の総所要時間、社内チャットの体感、エージェントの1周にかかる秒数。ここに効きます。
一方で知能の総合評価は横並びです。同じ指数(v4.3)でGLM 42、DeepSeek 40、Qwen 40、Luna 38。差は4点しかありません。
弱点もはっきりしています。長く続くタスクを測るTerminal-Bench 4.0でDeepSeekは27%、超難問のHumanity’s Last Examで39%。GLMがそれぞれ33%、40%で上回っています。一方、DeepSeek自身の発表ではTerminal-Bench 2.1で90.6という高い数字が出ています。ただし第三者機関が測っているのは4.0のほうで、90.6を突き合わせられる独立データは今のところありません。カタログ値と第三者計測は別物として扱うのが安全です。
数字を引用するときは、指数の版にも注意が必要です。GLM-5.3-Flashのスコアは、旧版では57、9月7日公開の新版(v4.3)では42と表示されます。新版ではTerminal-Benchが2.1から4.0へ上がり、一部の試験も差し替えられました。モデルが劣化したわけではありません。比較表を引用する際は、同じ版・同じ時点で揃っているかを確認してください。
ここまでを踏まえた実務の線引きは、次の3つに整理できます。
第一に、一発で終わる処理はDeepSeekが有利です。要約、分類、翻訳、下書き生成、大量のバッチ処理。入力から出力まで一往復で完結する仕事は、速度がそのまま処理量になります。オフピークが半額なので、夜間バッチへ寄せる運用と相性がよいのも実利です。
第二に、数十ステップを回すエージェントや、長時間の自律作業は他のモデルを当てます。長く続くタスクの評価でGLMが上回っている以上、ここでDeepSeekに固執する理由はありません。1つのモデルで全部を賄う発想を捨て、仕事の種類で振り分けるほうが結果的に安くなります。
第三に、最後の判断は自社データで行ってください。おすすめは、自社の代表的な業務データを20〜30件そろえて「社内評価セット」にすることです。新しいモデルが出るたびにそれを流せば、他人の作った比較表を待つ必要がなくなります。今回のように2週間で3社が新モデルを投入する状況では、この仕組みを持っているかどうかが、そのまま意思決定の速さになります。
コスパ最強に戻ったのか。単発処理に限れば、答えはイエスです。ただし王座は固定席ではありません。中国3社が同じ設計思想へ同時に到達した以上、次の入れ替わりも数週間単位で起きます。選ぶべきは特定のモデルではなく、乗り換えられる体制のほうです。
いいえ。本文で比較したオフピーク時の単価では、Qwen3.8-Flashなどのほうが安価です。V4.1-Flashの強みは、単価だけでなく出力速度を含めた総合的なコストです。
要約、分類、翻訳、下書き生成など、一往復で完結する単発処理です。第三者計測で示された速さが、待ち時間と処理量の両方に効きます。
本文で参照した第三者評価では、長く続くタスクではGLMが上回る指標もあります。実務では代表的な業務データで検証し、仕事の種類に応じて振り分ける判断が必要です。
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