2026年10月2日、京都で旅館を運営する会社が、約1年間のAI活用の成果を、全社員の年間給与を一律約50万円引き上げる形で還元したと発表しました。
経費登録は月約160時間から約15時間、月次の損益会議は約1時間から約15分に減ったといいます。外部の備品管理システムは自社開発に置き換え、月額約25万円の運用費が約2万円になりました。
この記事で見たいのは、賃上げの原資がどこから出たのかです。浮いた「時間」と浮いた「お金」は別物で、社員へ先に戻しやすいのは、外に払っていた費用のほうでしょう。そして外に払っていた費用が社内に戻るとき、その金額は、誰かの売上から消えます。
外から仕事を受けるB2Bの会社は、これからどう稼ぐのか。事例を入口に、発注する側と受ける側の両方から考えます。

同社は約1年前、現場スタッフと代表を中心とする「業務効率化プロジェクトチーム」を発足しました。掲げた目標は、「生産性を高め、その成果を全社員の給与向上につなげる」ことです。
ツールは役割で分けています。マネージャー職以上にはClaude、現場スタッフにはMicrosoft Copilotのアカウントを渡しました。
還元の原資について、同社は「これらの取り組みによって生まれた収益やコスト面での余力」と説明しています。狙いは人の置き換えではなく、スタッフがお客様と向き合う時間を増やすことだといいます。

発表された成果を、時間とお金に分けて並べます。
時間が減ったのは、経費登録(月約160時間から約15時間)、月次の損益会議(約1時間から約15分)、OTAからの問い合わせや口コミへの返信(1通約7分から2分未満)、マーケティングの分析(1施設約3時間かかっていた作業が、5施設分で約1時間)です。
支払いが減ったのは、備品管理の外部システムです。AIで開発した自社システムに移し、月額約25万円の運用費が約2万円になりました。経費登録のアプリも、会計ソフトの有料オプションで対応していた領収書の読み取りと仕訳連携を、自社アプリで置き換えたものです。こちらは金額の減少が示されていません。
同じ「効率化」でも、お金への効き方は違います。備品管理は、発表どおりなら運用コストが月約23万円減り、年にすると約276万円の差になります。ただし、開発や保守にかかった費用は示されておらず、純粋にいくら残ったかは分かりません。
一方、経費登録の月145時間は、時間が圧縮できただけです。残業を減らす。あるいは、同じ社員がほかの仕事を担う。これまで社員以外の人がやっていた仕事を、社員が担うようになる。そうして初めて、時間はお金の話になります。時間が空いただけでは、お金は動きません。

ここからは僕の考察になりますが、これからAIを使って成果を上げる企業は、増えていくでしょう。その成果として最初に表れやすいのは、外に発注していた費用がなくなることではないでしょうか。
この会社の発表にあった話ではありませんが、たとえば、SNSの運用、チラシの制作、マーケティングの立案、代理店に任せていた広告の運用。こうした仕事は、これまで専門家や外部の会社に頼んできました。AIを使えば、社員でも実行できる範囲が広がっています。外に頼んでいた部分を社員でできるようになるほど、その費用はなくなっていきます。
外に払うお金をかけずに同じ仕事ができれば、利益や粗利が増えます。そこから社員へ還元できる余地が生まれます。備品管理の外部システムを自社開発に置き換え、月額約25万円の運用費が約2万円になったのは、その小さな実例です。

外に払っていた費用がなくなるということは、裏返すと、誰かの売上がなくなっているということです。
いま挙げたような仕事は、これまで誰かが外で受けてきました。そうした仕事が、これからどんどんなくなっていきます。 受けている側からすると、かなり厳しい話です。
すでに数字に出ている分野もあります。東京商工リサーチは、翻訳業100社の2025年度の売上高が、ピークだった2022年度より約1割減り、最終利益は約7割減ったと分析しました。同社は、機械翻訳が進化して簡易な文章は無料でも訳せるようになり、価格競争が激しくなっていると書いています。ただし、複雑な契約書面や専門分野では、人による翻訳と最終チェックが欠かせないとも書かれています。

AIでもできる作業を売っている仕事は、単価が下がりやすくなります。AIが当たり前に入ってくるにつれて、そうした仕事がなくなっていくのは避けられないでしょう。そのために、受ける側ができることは3つあります。
1つ目は、作業だけではなく、成果と責任を負うことです。作業時間で請求すると、AIで速くなった分だけ売上が減ります。成果物の品質や結果に責任を持つ売り方なら、手段がAIに変わっても価格を保ちやすくなります。ただし、顧客が成果の定義を持ち、測れることが条件です。測れない仕事では、結局、時間単価の話に戻ります。
2つ目は、AIに任せられない領域を担うことです。翻訳業の調査にあったように、複雑な契約書面や専門分野では、人による最終チェックが残ります。例外が多く、間違いの責任が重い領域ほど、人の出番が残りやすくなります。逆に、例外が少ない領域は、先に社内へ戻ります。
3つ目は、企業からの発注以外から売上を作ることです。個人向けのサービスを始める。これまで外注していなかった企業から売上を得る。どこかの会社から仕事を受けるだけではない形で、売上の作り方そのものを考え直します。
3つに共通するのは、「何を売っているのか」を、作業から、成果と責任へ、さらに売り先そのものへと動かすことです。この旅館が全社員に年約50万円を還元できたのは、外に払っていた費用と時間を、社内に戻せたからでした。同じことが、これから多くの会社で起きていくはずです。そのとき、仕事を受ける側は、自分が売っているものを作業から動かせるか。その問いが、すでに始まっています。
発表では、AI活用で生まれた収益とコスト面の余力が原資とされています。外部の備品管理システムを自社開発に置き換え、月額約25万円の運用費が約2万円になったことは、その小さな実例です。ただし開発や保守にかかった費用は示されていません。
なりません。経費登録が月約160時間から約15時間に減っても、時間が圧縮されただけです。残業を減らす、同じ社員がほかの仕事を担うなど、時間の使い道が決まって初めてお金の話になります。先に戻しやすいのは、外に払っていた費用のほうです。
AIでもできる作業を売っている仕事は、単価が下がりやすくなります。東京商工リサーチは、翻訳業100社の2025年度の売上高がピークの2022年度より約1割減ったと分析しています。生き残る方向は、成果と責任を負うこと、AIに任せられない領域を担うこと、企業からの発注以外から売上を作ることの3つです。
AIの動きを、仕事の設計につなげて考え続けるために。AIを徹底的に使いこなすためだけのコミュニティ「フロンティア・リーダーズ」:https://frontier-leaders.vercel.app/
外部ツールを自分たちで作る側に回りたい方へ。2時間で、AI活用術を実践のハンズオンで学べます(「AIで2時間でツールを作る会」などの過去回のアーカイブ):https://handson.workstyle-evolution.co.jp/
毎日のAIニュースを、仕事にどう効くかで読み解いています。YouTube『いけともch』:https://www.youtube.com/@iketomo-ch