
いけとも:今日のテーマは、オープンウェイトの百花繚乱です。直近では、中国のDeepSeekに加えて、米国でもMetaがMuse Sparkのオープンウェイト版を出しました。
米国のベンチャーReflection AIも、Beamを発表しています。欧州のMistralは、Mistral Large 4を発表しました。今はAPIだけですが、重みも月末までに公開する予定です。
尾原:ここまで広がるのが早いと、正直、ちょっとゾッとします。しっかり話したいテーマでした。
いけとも:まず前提です。オープンウェイトは、オープンソースとは違います。AIの脳みそにあたるパラメータ、つまり「重み」だけを公開する形です。
どう鍛えたかまでは、公開されません。でも、ダウンロードすれば、自分のパソコンや社内のサーバーに、脳みそを移植して使えます。
データを社外に出さずに使えるうえに、自分のデータを足して、より賢く育てることもできます。ケースによっては、非常に安く、速く、安定して、特定の処理をこなせます。
いけとも:業界全体で見ると、中国がめちゃくちゃ強いです。AlibabaのQwen、DeepSeek、セキュリティで話題のZ.aiのGLM、MoonshotのKimiは、どれも有名です。
米国も、重要だと言い始めました。Googleはもともと出していますし、Metaも存在感を取り戻してきました。NVIDIAも、オープンウェイトに力を入れるベンチャーを支援しています。
欧州のMistralは、最先端を走っているわけではありません。それでも、データ管理ができる形で売っています。
オープンウェイトの最新水準は、クローズドの最先端から約4か月遅れと言われています。数か月前のGPTやClaudeのレベルだと考えれば、実務で十分に使える品質です。

尾原:僕が個人的に着目しているのは、「数か月遅れ」という話以上のことです。
最先端のモデルほど、ものすごく大きな範囲を考えることは、まだ得意です。でも、日常業務くらいのことを実行するモデルが、ものすごい勢いで効率化しています。ClaudeでいうSonnetクラスです。そのトークンの価格が、バカみたいに安くなってきました。
先週末、DeepSeek V4.1 Flashの更新版が出て、衝撃が走りました。
コーディング系のベンチマークでは、最上位級に迫る性能を、Claude Opus 5.5の約30分の1の価格で出せるところまで来ています。
いけとも:DeepSeekは、V4のマイナーチェンジかと思いきや、性能が上がって、実用レベルがさらに上がりましたね。
尾原:マイナーアップデートのレベルではありません。学習の環境を広げるなど、いくつかの工夫の組み合わせがあるようです。ベンチマークの数値がかなり良かったので、大きな騒ぎになりました。

尾原:現実問題として、マルチエージェントで動く大きなプロジェクトで、全体を統括するディレクター役は、まだ弱いと見ています。
でも、サブエージェントとして任された1つのかたまりをやり切る仕事なら、問題ないところまで来ました。
これからは、AI前提の経営になって、個人もAIに物事を任せていきます。会社に置き換えると、社長や事業部長が考える仕事と、課長・係長・平社員がやる仕事があります。人数が多いのは、後者です。
そのサブエージェントの仕事の単価が、バカみたいに下がっています。やれることが半端なく増えるので、ここが変曲点だと思っています。
いけとも:AI系のベンチャーの人たちの中には、OpenCodeを使う人もいます。Claude CodeやCodexのオープンソース版で、裏側のモデルは何でもいい仕組みです。OpenCodeにDeepSeekをかける、という人も結構います。
全部をDeepSeekにする必要はありません。賢いところだけClaudeに任せて、細かいサブエージェントはDeepSeekで動かす、という分散もできます。
ただ、DeepSeekを多くの人はAPI経由で使っています。どこのAPIを使うかで、少し懸念があります。米国のサーバーで動かしているものなら、データの置き場所という点では、AnthropicのAPIを使うのと実質的に変わらない、とも言えます。

いけとも:大きなモデルでも、ハードウェアを買えば、完全に社内で、一定の速度で使えます。めちゃくちゃ大量に使うなら、そういう選択肢も出てきました。
尾原:目安は、モデルにもよりますが、数千万円から1億円弱だと見ています。量子化の度合いでも変わります。
構築する側のコストも、下がってきています。OpenAI、Anthropic、Googleのクラウドを使うのは当たり前です。でも、他社のサーバーを借りているぶん、コストはかなり上乗せされます。個人の月額プランはお得でも、企業は圧倒的に量を使います。
自社でハードウェアを持つか、サーバー会社に確保してもらって自分で運用すれば、クラウドへの依存から離れて、コストが下がります。コーディングのような実用領域では、モデル側の価格の下がり方も激しいです。現実的な視野に入ってきたと思います。
いけとも:僕のアドバイザリー先でも、試験的にNVIDIAのDGX Sparkを入れています。AIモデル専用のハードウェアで、128GB版は日本で約200万円です。2台つなぐと、約4,000億パラメータのモデルまで動かせます。
尾原:自社のハードウェアには、効用が3つあります。
1つ目は、コストです。2つ目は、人材育成です。どうせ買ったのだから、使わなければ損というモードに変わります。そこまで高度なAIでなくても、いろいろ試してみよう、という動きが出ます。
3つ目は、リファクタリングです。過去に作ったプログラム資産を、きれいにし直せます。AIは高いから手を出せなかった領域でも、空いているときにどんどん実験できます。
トークン上限の中で、精査してからやりなさいと言われていたことが、気軽に試せるようになります。

いけとも:大きなモデルを入れて、実験的に社内でつなぐ動きは、増えています。でも、本格的にハードウェアを入れて、クローズドモデルから切り替える会社は、まだ聞こえてきません。
最近、AccentureがClaudeのコストを管理する、というニュースがありました。1人あたり月29ドルまでは中央の予算で負担し、それを超える分は、各プロジェクトやチームの予算で負担する形です。
トークンが増えすぎて、トークンのマネジメントをしなくてはいけなくなりました。がっかりしている社員の声もあるようです。
あの規模なら、Claudeに無限には払えない。それなら、DeepSeekのようなモデルを社内に置いて、つなげば使い放題という選択肢を、中央で足してあげる手もあると思います。容量の上限はありますが。今のところ、そういう会社の話は、あまり聞こえてきません。
尾原:こうした環境が揃ってきたのは、ここ最近の話です。ただ、最先端のフロンティアモデルの進化も激しく、できることの天井が、ゴーンと上がります。
Accentureのように最先端のお客様に最先端のことをするなら、最先端のモデルを使うことになります。一度ローカルに環境を作ると、設備の残存価値や運用の話も出てきます。
だから、多少高くなっても、クラウドを使い続けて最新の恩恵を得たほうがいいタイミングがあります。逆に、使い方が固まったら、自社で動かしたほうが安いタイミングもあります。
自社で動かせば、セキュリティも、自社の独自性も作れます。このトレードオフのバランスが、いよいよ良くなってきた、というのが僕の見立てです。個人はそこまでいかないかもしれませんが、企業は見極めていくことが大事です。

いけとも:別の軸では、先週のセキュリティの話とつながります。オープンウェイトは、ダウンロードできてしまうので、悪用もしやすい。残念ながら、この問題は明確になっています。
Anthropicのレポートによると、オープンウェイトのGLM 5.3は、今年4月に発表されたClaude Mythos Previewに近い水準のサイバー能力を、一側面では持っています。
僕もGLM 5.3を、OpenRouter経由でOpenCodeにつないで試しました。自分の投資先のサイトをチェックして、穴があれば実行して、と依頼したんです。結果は、ちゃんと断られました。法律にも抵触します、と。ガードがガバガバ、ではありませんでした。
ただ、それはOpenRouterなどを経由して使っているだけです。ダウンロードして持ってきて、少しカスタマイズすれば、ガードは外せます。Anthropicは、改造版は100%回避できたと報告しています。
大きなサーバーは必要ですが、どこかを借りてきて、一部を追加で学習させれば、安全装置を解除して、攻撃的に使えます。しかも、止められません。どこが使っているかも、わかりません。
こうした流出は、すでに起きています。10月に入っても、スカイチケットの約1,460万件、ソースネクストの約2,250万件など、千万件規模の流出が続いています。
尾原:ほぼ全員、1回は盗まれていますね。
いけとも:悪用される前提で、これから生きていかないと、非常に怖いです。
尾原:オープンウェイトで出ているモデルから、あとからかけた強化学習による安全性を外すのは、論理的には、ほかのものよりも難易度が低いです。
もう1つ大きいのは、歴史を振り返ると、得意を持った利用者のほうが、犯罪の効率が良くなることです。セキュリティも、99件防いでも、1件で負けの世界です。
1,000個攻撃して、1個がうまく動き、数億円分のデータが取れれば、それでペイします。

尾原:善意で使っているのに暴走する問題には、いろんなレベルのブロックが出てきました。たとえば、NVIDIAのOpenShellです。AIの外側で、ファイルや通信の権限を制御して、ブロックをかけます。
データの挙動を監視して、侵入されたかもしれないと検知し、一度ブロックする仕組みも出てきました。自社が善意で使っているのに、悪意が発動することを止める環境は、この1か月でかなり整いました。
一方で、悪意の側は、先に過剰に進化してしまいます。防御側が追いつくまでには、2〜3か月かかります。その差は、前回話したように、少なくとも個人レベルでできる防御を、しっかりやるしかありません。
いけとも:前回の、ミスユースとマルユースですね。ミスユースは、善意で使っていたのに、暴走して消したり、情報を送ったりしてしまうものです。これはガードレールがあり、かなり防御できるようになりました。
一方で、マルユース、つまり悪意を持って使う人を、止めるのは難しい。自分たちが、やられる前提でガードを固めなくてはいけません。
そこで僕は、イベントをやろうと思っています。4時間ほどで、エージェントを自分で購入して契約し、外からどう見えるかと、中をつないでセルフチェックする内容です。つないでやると、危ないものをリスクごとに、レポートで出してくれます。
読んでいると、本当に危ない、放っておいたらまずい、という気持ちになります。網羅的ではないので、やるか迷いました。でも、100点満点を待つより、80点でもやったほうがいいと思いました。
尾原:みんなが、Mythosで攻撃しているわけではありません。AIで簡単に攻撃できるようになったから、とりあえず弱いVPNを狙う、という話です。少なくとも、そこを塞ぐのは非常にいい話です。
いけとも:最初は、公開されているサイトを片っ端から見て、明らかに穴がありそうなところをチェックします。穴があれば、ターゲットリストに入ります。そこから穴を抜いたときの期待値が高いところを、しっかり狙います。
尾原:ブラックマーケットは、壮大な分業作業になっています。
穴が空いているところのリストを売る人。そのリストをもとに攻撃する人。メールアドレスとパスワードを売る人。メールアドレスとクレジットカードの下3桁から、フィッシングメールを作って釣る人。
だから、シンプルに防げるところは、とりあえず塞いでおきましょう。本格的に狙われるなら、費用対効果のいいところに行きます。そうでない側は、そこまで本気では攻撃されません。悪人のほうが、経済合理性は高いですから。

いけとも:先週は、ひたすらアカウントを消して、パスワードも変えました。昔のアカウントが残っていて、Chromeで100個ほど流出していたんです。昔、同じパスワードを使い回していたものが、履歴に残っていました。
自分で話した覚えのないアカウントもあって大変でしたが、内蔵ブラウザで、消す直前まで出してもらい、ボタンを押す形で全部きれいにしました。すごく気分がよかったです。
尾原:素晴らしいですね。僕は、オンラインで使うものには、オンライン専用で上限金額をめちゃくちゃ低くしたクレジットカードしか登録しません。盗まれる前提の運用設計で生きています。
いけとも:入り口のIDとパスワードが仮に抜けたとして、次にどこまでリスクが広がるかは、持っている権限や範囲によります。何層かに分けておかないと、入り口の1個が破られた瞬間に全部抜かれて、終わりです。
尾原:取られても被害を限定できる防御の方法は、いくつかあります。それをしっかりやっていく、ということです。

尾原:最後にもう1つ。日本の国産モデル、SB IntuitionsのSarashinaはどうでしたか。
いけとも:試しました。文章、翻訳、分類、チェックなど、いくつか試して、非常に簡単なタスクや翻訳は、速くて、いい印象でした。日本語の品質も高いと感じます。
今のところ、APIやチャットは無料で使えるため、金額は出ていません。単純なタスクを任せる使い方は、十分にありです。
尾原:近年のAIがバカみたいに進化しているのは、トレーニング用のデータを、きれいに大量に作れるようになったからです。まず国産AIとして、トレーニングデータを整備するAIを1段目として強くしておくと、2段目、3段目の進化が圧倒的に速くなります。
最初はオープンウェイトのものを借りて、日本語のトークンの切り方から作り直し、だんだん中身そのものも、お客さんのものにしていく。そういうモデルが、次に来る可能性もあります。
いけとも:ファインチューニングもできる形で出てくると、自分たちが持っているデータの品質や、整備の度合いが重要になります。素振りでトライしておくと、足りないものがわかります。
データをあとから集めるのは大変です。貯めるところだけ貯めるようにしておけば、あとから簡単に使えます。そういう先行する価値が、高まったと感じました。
尾原:最後は、日々の仕事に必要なAIのレベルを、見極めることです。そのレベルでの費用対効果と、使う量を見れば、オープンウェイトは非常に現実的な選択肢になりました。
一度自社のハードウェアで持てば、使いまくるほうが得になります。トライ&エラーをたくさんして進化させることも含めて、選択肢を見ておくのが重要です。
いけとも:というわけで、皆さんもぜひ、オープンウェイト領域に注目していきましょう。
オープンウェイトは、AIの脳みそにあたる「重み」だけを公開する形です。どう鍛えたかまでは公開されません。ダウンロードすれば、自分のパソコンや社内のサーバーで動かせます。
公式の価格表で比べると、Claude Opus 5.5の約30分の1です。コーディング系のベンチマークで最上位級に迫る性能を、この価格で出せるところまで来ています。
ダウンロードして改造すれば、安全装置を外せます。Anthropicのレポートでは、改造版は100%回避できたと報告されています。守る側は、弱い入り口から先に塞ぎ、盗まれる前提で設計することが現実的な対策です。
ポッドキャストできく:https://creators.spotify.com/pod/profile/deepai/episodes/AIAI1021-e3qqnd1
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YouTube『いけともch』:https://www.youtube.com/@iketomo-ch
Podcast『いけとも尾原DeepなAIニュース』:https://open.spotify.com/show/3hGAbKZI5oo9PsbFI1IxTr