
いけとも:今日のテーマは、Anthropicの上場書類です。アメリカで上場するときに必ず公開する「S-1」という書類が、いよいよ公開されました。
売上、社内の事業状況、リスクまで書いてあります。上場に向けて検証されているので、正しい情報である可能性が極めて高いファクトブックです。
直近の2026年4月から6月の四半期だけで、売上は約116億ドルです。昨年の同じ時期と比べて、約15倍になっています。
尾原:一番大きな論点は、投資に対して収益が上がっているのか、という懸念でした。アメリカでは、自前のAIを持たず、インフラだけを提供しているプレイヤーの株価が下がる動きがありました。
今回の資料で、その懸念への答えが見えてきました。1つは売上の勢い。もう1つは、営業活動から入ってくる営業キャッシュフローです。
上期だけで約40億ドル、日本円で約6,000億円です。年間にすると約1.2兆円のキャッシュが出る水準まで来ています。マーケットにはポジティブな材料だと思います。
ただ、これは投資判断のためのポッドキャストではありません。未来を読み解くために、何が兆しとして見えるのかを話していきます。

いけとも:僕が注目したのは、全体像よりも、Anthropic社内での活動量です。
2026年9月時点で、社内のプログラムのコードの9割以上をClaudeが書いています。エンジニア1人あたりの1日のコードのマージ量は、2024年と比べて約45倍です。
尾原:AIモデルの会社は、AIを開発に使うと、サービスがどう変わるかのフロンティアでもあります。ここは本当に注目すべきところですね。
いけとも:チャットの時代から、Claude Codeに移って、ただの相談相手が同僚になりました。任せる幅がどんどん広がった結果です。
Anthropicの公式レポートでは、2026年第2四半期の時点で、2024年比で約8倍でした。そこから約45倍まで来ています。加速の度合いがすごいです。
尾原:Googleは、4月にCEOが、社内の新しいコードの約75%はAIが生成していると語っていました。それを大きく超えて、AI会社がさらに先に進んでいることが分かったのは、面白かったです。

尾原:Anthropicのユーザーの実態も出ています。上期の売上の約8割は、従量課金です。月額ではなく、使った分だけ払う契約です。
思った以上に、サブスクよりも企業の活用が多いということです。
もう1つ、マニアックな指標があります。既存のお客様の利用量が、前年比でどのくらい増えているかを見るNRRです。これが約900%でした。
お客様が、前年の9倍もAIを使っていることになります。ずっと9倍で伸びるわけではありません。でも、クライアントの数だけでなく、1社あたりの量も増えているのが、今回の数字から見えます。
いけとも:8割が従量課金は、すごいですね。
尾原:僕らのようなフリーランスや少人数のスタートアップは、月額アカウントを複数組み合わせて、リセットのタイミングを読んで回しがちです。
でも、日本のAIスタートアップと話していても、大事なのは別の点です。開発がどんどん加速するので、お客様のワークフローの一部に入り込んだら、上下や横に広がる製品をつないで、乗り換えにくくすることです。
Anthropicだけでなく、お客様もフルアクセルで走っているのが見て取れます。

いけとも:1人あたりの金額にも、面白い数字がありました。
エンタープライズ版で、Claude Codeを使っていないユーザーは、1人あたり平均で月75ドル未満です。チャットやCoworkが中心のイメージです。
ところが、Claude Codeを使っている上位5%は、その約20倍を使っています。仮に75ドルの20倍なら約1,500ドル、日本円で20万円ほどです。
尾原:さっきの8割の従量課金の中身は、そういう使い込む人たちなのだと思います。

いけとも:企業への入り方にも、面白い記載がありました。成長の大部分は、セルフサービスで自然に広がる形だそうです。
個人で使ってみてすごくいいから、会社でも入れよう。そんな流れが想像できます。その人が主に使っているツールに、会社も流れていきます。
尾原:Claudeは、もともと劣勢だったところから、MCPやSkillといった、他社でも使える共通の部品を定義してきました。企業側は、Anthropicで作っておけば他でも使えるから大丈夫、と安心して作れます。
それでも、ハーネスや、Opus 5.5の指示を安定して実行する力は強いです。周りの企業内のAI活用者も、Codexに浮気したり、いろいろ試しながら、なんのかんのAnthropicに戻ってきています。
いけとも:僕もそうです。最新のGPT-6でCodexに一度偏りましたが、結局メインツールはClaude Codeに戻りました。めちゃくちゃ差があるかというと、慣れもあると思います。
尾原:Geminiも試しました。悪くはないのですが、トゥーマッチなんです。そんなに細かく定義して、トークンを使ってガチャガチャやらなくていい、と思ってしまいます。
Claudeは、ちょうどいいんですよね。WindowsとMacintoshの時代に、最初にフィット感を作ったUXの居心地の良さに近いのかもしれません。

いけとも:もう1つ、Anthropic社内のデータです。社内でClaudeを定価で使ったとして、その利用額が、2026年4月には人件費を超えた。上場書類には、そういう趣旨の記載があったと読みました。
Anthropicのエンジニアの人件費は、かなり高いはずです。それよりも、AIの費用のほうが大きくなっています。人を1人採用するのか、AIをこれだけ使うのか、というバランスを見る時代です。
尾原:単純には割り切れません。でも、コードの量が桁違いに増えているのに、エンジニアの人数が同じだけ増えたわけではありません。
コードの量が付加価値と同じではないにしても、レビューを通ったコードが新しく生まれているなら、1人あたりの生産性は、少なくとも倍にはなっている匂いがします。
付加価値の方向にインセンティブがそろっていれば、給料と同じくらい、あるいはそれ以上をAIに使っても、全く問題ありません。生産性が10倍になるなら、という話です。

いけとも:僕がいちばん面白かったのは、開発の成功率です。社内のベンチマークで、難しい開発課題をAIでやり切れる成功率が、年初は半分に届かなかったのに、9月には約9割になりました。
肌感覚にも合っています。2025年にバイブコーディングでツールを作っていたころは、エラーが出まくって、一日中エラー対応をしていました。
今は、本当にエラーが出なくなりましたよね。機能も、一瞬でできてしまいます。
尾原:出なくなりました。UXやツール連携まわりのミスが、本当に減りました。
1年ほど前に、テスト駆動開発をハーネスで管理して、最初から検証しながら全体を設計する流れが出ました。部分開発での仕様の読み込みの精度も上がって、今や当たり前の感覚です。
いけとも:Anthropicの上場書類は、AIに変革していくとき、前は諦めていたことが、実はここまでいける、という証拠になります。
尾原:アスリートがここまで突き詰めているから、自分たちももっといける。ベンチマークとして読む価値があります。
もちろん、Anthropicには、そういう数字を出したいポジションがあります。でも、嘘はついていないでしょうし、肌感にも合っています。

尾原:先週、世界最大のスタートアップアクセラレーターであるY Combinatorで、AIの推論(インファレンス)をテーマにしたペーパークラブがありました。
その場の話も踏まえて、僕はこう考えています。開発はこれからもAI化が進みます。でも、エージェントに自動化を任せるほど、日々実行する推論のコストのほうが効いてきます。
ただ、今回の上場書類からは、変革ラッシュで急に立ち上がる開発の分と、変革のあとでエージェントが日々動かす分が、どんなバランスになるかは読めませんでした。
いけとも:推論だけなら、そんなに賢いモデルはいらない、という見方もありますよね。作っている途中だからフロンティアが重要で、作り終わって回すときには不要だ、という話です。
尾原:仕事は2種類あります。1つ目は、決めたことをやり切る実行。2つ目は、何をやるかを決める認知・分析・判断です。
実行のほうは、DeepSeek V4.1がOpus 5.5に迫るベンチマークの水準で、価格は数十分の1という話をしています。OpenAIも、値下げでAnthropicのお客様を取りに来ている、という話があります。ゴシップなので、本当に動いたかは分かりませんが。
いけとも:答えが明確なバックオフィスの処理は、低コストでいけます。営業の提案やマーケのプランのように、答えがなくて、ベターな解を探す推論は、賢いほうが勝ちます。
尾原:認知と分析のフェーズで、フロンティアモデルがどのくらい重要になるかは、スタートアップ界隈でも熱い論点です。そこのほうが、新しいAIスタートアップを作れるのでは、という議論もあります。
将棋に藤井聡太さんが入って、全体のレベルが上がったような話になるのかもしれません。
いけとも:ただ、人間の認知の限界が来ている感じもします。無限に賢いAIがいても、答えのない問題では、こちらが理解できなくなりそうです。
尾原:そこで、環境コストのたとえが使えます。昔は、公害を出しながら利益を出してもよかったのが、SDGsで変わりました。自社だけでなく、調達先まで含めた二酸化炭素排出のコストを見る、スコープ3です。
最初は経営に組み込めるのか、と戸惑う。でも、新しい形に単純化することで、経営のハンドルに変わりました。
AIも同じで、いったん認知を最大化する時期が来て、そのあとで、うちの会社ではこう単純化できる、という経営のダッシュボードに落ちていくのだと思います。

いけとも:メタスキルの発想があります。資料を読ませて、複数のデータを組み合わせて、自分の関心があるテーマのインサイトを出してもらう。英語が読めなくても、分析はそんなに難しくありません。
尾原:今日の僕らの会話のログと、Anthropicの上場書類のS-1を、セットにして渡してみてください。話したことを、資料の中からもう一度、裏打ちしてもらうんです。
もっと裏付けになる数字を出してくれますし、取れた数字をダッシュボードにして、フロンティア系のレポートが出るたびに追えば、自分たちの進化の定点観測になります。
いけとも:自分にとって何が面白いかを考えると、勉強にもなりますし、深掘りしがいがあります。
尾原:雑談を楽しむだけで、あとからAIが精緻にしてくれます。気軽にやってみてください。
2026年4〜6月の四半期だけで売上は約116億ドルで、前年の同じ時期の約15倍である。上期の営業キャッシュフローは約40億ドル(約6,000億円)に達している。
2026年9月時点で、Anthropic社内のコードの9割以上をClaudeが書いている。エンジニア1人あたりの1日のマージ量は2024年比で約45倍で、公式レポートでは2026年第2四半期の時点で約8倍だった。
エンタープライズ版でClaude Codeを使っていない人は、1人あたり平均で月75ドル未満である。Claude Codeを使う上位5%は、その約20倍を使っている。売上の約8割は、使った分だけ払う従量課金である。
ポッドキャストできく:https://open.spotify.com/episode/5JqVgcIJe3NIQH6OjtDo24
新著(11/10発売)『システムゼロ――「AIがすべて先回りする」時代の思考法』:https://link.amazon/B0h56HiRH
新著(7/27発売)『Claude 最強のAI自動化術』:https://amzn.to/4eTUVG1
YouTube『いけともch』:https://www.youtube.com/@iketomo-ch
Podcast『いけとも尾原DeepなAIニュース』:https://open.spotify.com/show/3hGAbKZI5oo9PsbFI1IxTr